第77話 リョウちゃん、地廻り天女に会う。

「やばい。あれは吉祥天に仕えてる地まわりの天女だ」


「なんだそりゃ」


「獄卒が亡者に不当な扱いをしていないか見守る天部の連中のことを、地廻りって言うんだ」


「へぇ」


「ここは頼まれてくれよ」


「は? なにを?」


「この糞虫を潰したのはあたいじゃなく、あんたってことで」


 ベアトリス愛が手を合わせてリョウを拝む。


 相手がどんな巨●兵だろうと、女に頼まれたら嫌とはいえないのが山内リョウだ。


「………貸しだからな」


『答えなさい。そこの獄卒。亡者を岩の下敷きにしたのはあなたですか』


 天女が光をまとったまま降臨してくる。


 薄く透けたピンク色の羽衣は天使の翼のように広がり………というより、全部の服が透けていた。


 乳房も秘部もすべてうっすら見えている。視界にモザイクが必要だ。


 それに、なんという美女か。


 その芳醇な甘い匂いと、今すぐにでもむしゃぶりつきたくなる乳房、抱きしめたくなる細い腰はそれでいて肉付きもよい。そしてずっぷりと顔を埋めたくなる肉厚の尻………これは人をダメにするソファならぬ、男をダメにする天女だ。


 ベアトリス愛はリョウので押した。


 大の大人の肩に届く膝。ベアトリス愛がどれだけ高身長なのか想像に容易いだろう。


 ちょっとでも見上げたら目線の先にベアトリス愛の虎柄ビキニパンツがあるので、本来ならば目のやり場に困るものだが、そのパンツが包んでいるのは鋼鉄の藍い筋肉なので、リョウとしては気にならないようだ。


 しかも目の前にはエロさ満載の天女が浮いている。筋肉の巨人と比較するべくもなかった。


「こいつじゃねぇ。俺がやった」


『まぁ』


 天女は驚いたような顔をしてリョウに近寄った。


 近くに来るだけで、蜂蜜より、バニラより、ココナッツより、甘い匂いがしてくる。


 人間の場合、体臭がこれほど甘い匂いだと糖尿病を疑うべきだが、相手は女神だ。天界のお高い香水パルファムを愛用しているのかもしれない。


「亡者同士のいさかいには関与しない。獄卒は亡者を保護するだけで手出し無用。それが地獄の獄卒ルールだけど、なにか?」


 ベアトリス愛がツンと言い放つと、天女は微笑みを絶やさないまま『その通りです』と認めた。しかし………


『本当にあなたが? ウソツキが堕ちるこの大叫喚地獄で、さらに嘘を重ねるのですか?』


 と、微笑みのままリョウに問い詰めてきた。


「なんで嘘だと?」


『この大岩を持ち上げて落とすなんて、人間にできる芸当ではありませんから』


「なんで持ち上げて落とすの前提なんだよ。穴掘って埋めたんだよ。バカなのか? バカだよな? おいバカ、おっぱい見えてるぞバカ」


『一応天女相手にバカバカ言わないでくださいな、亡者さん』


 天女は微笑んだまま胸元に手をやった。


『そんなに苛ついてどうしたんですか? ストレス溜まってます? おっぱい揉みます?』


「はい」


 思わず本音で返答した瞬間、ベアトリス愛に足を踏みつけられた。


「あ、ごめんごめん。小さいから見えなかった。これ事故な」


 地面が柔らかい土で良かった。アスファルトだったら、きっと足の甲から指先まで複雑骨折していたところだ。


『ところで────穴を掘って埋めたのかどうか、そもそもあなたがやったのかどうか、この埋められている亡者さんに聞けば早いわけですけど」


 微笑みは一切崩さず、しかし天女は「してやったり」という顔で言った。


『鬼女や亡者風情が天女たる私を謀ろうなど。いえ、良いのですよ。汚泥の中に生きるあなた達が、美しき私に嫉妬する気持ちはわかりますから』


 リョウは思った。


 この傲慢天女、叩き落としてやろう。

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