第76話 リョウちゃん、随意圧処に行く。

 受堅苦悩不可忍耐処じゅけんくのうふかにんたいしょ


 の部下が保身のために嘘をついたり、その地位を利用して嘘をついた者が堕ちる地獄で、かつては罪人たちの体内に蛇を突っ込み、体内から肉や内臓を食い荒らさせていたらしいが、動物虐待禁止のために廃止になった。


 そもそも王や貴族という制度がなくなってしまった日本では、そのカテゴリーに入る罪人がいないそうだ。


 大昔ここに落ちた亡者たちはとっくに改心して転生しているので「受刑者ゼロ」なのだとか。





 次。






 随意圧処ずいいあつしょ


 他人の田畑を奪い取るために嘘をついた者が堕ちる地獄で、罪人を鉄に見立てて火で焼き、鉄槌で打たれ、ふいごで強火にしてまた焼かれ、引き延ばされ、瓶の中の湯で固められ、また火で焼くという「刀匠が日本刀を作る工程を人体で再現」というのが延々くり返される刑場だった。


 現代的解釈では、田畑だけではなく他人の土地全般を嘘で奪った者が堕ちる場所となったようで、そこそこ賑わっている。


 今は無用の長物となった獄卒用の武器を、土産物として作る工場になっているらしい。中には伝統工芸である刀匠の技を引き継いでいる亡者もいるらしいが、何千年かかっても望んだ刀が出来ない、と成仏できないらしい。


「なぁ、大叫喚地獄って………叫喚地獄よりヌルい気がするのは気のせいか?」


「別名『趣味の地獄』だからな。どの小地獄も追求すると抜け出せなくなって成仏できないんだよ」


 ベアトリス愛が「ふんっ」と吐き捨てるようにいう。


 最初のエステもガーデニングも確かに追求し続けるとキリがない。


 この刀鍛冶もそうなのだろう。


「悪者に改心させるための刑場なのにな」


「ああ、天国の指示全部そうなんだけど、亡者をようにも思えるよな」


「!?」


 リョウはベアトリス愛の言葉にひっかかりを感じた。


 天国が地獄をヌルくした理由は「時代だから」と刷り込まれていたが、よくよく考えてみたらどんな時代になろうとヌルくする理由としては薄すぎではないだろうか。


 それより明確な、地獄をヌルくする「理由」があるとしたら。


 心地よくて住みやすい地獄………罪を反省して転生することなく、ここに何兆年も居続けさせる必要があるとしたら。


「そう言えば、あたいが人間だった頃、おばあちゃんの土地を奪ったクソもここにいたなぁ」


「あんた人間だったのか!?」


 その身長、藍い肌、筋肉、ツノ………ベアトリス愛に人間らしさを求めていなかっただけに驚きだった。


「獄卒になってからこんな見た目になったけど、元は人間さ。閻魔大王だって元人間なんだから、獄卒が元人間で何が悪い」


「いや、別に悪いとは言ってねぇよ。で、そのクソって、どんなやつ?」


「親戚筋のよくある話さ。他の親戚にはおばあちゃんから直接相続してもらったなんて偽物の委任状とか出しやがってさ。それを相続した途端売り払いやがって………墓も生家もなくなっちまったんで、親戚一同激怒さ。しかも、その金がなくなったら他の遺産も俺のものだとかゴネ始めてな。糞虫ってのはああいう奴を言うんだろうな」


「そいつはどうなったんだ?」


「ほれ」


 ベアトリス愛が指差した先に大きな岩がある。


 その岩に下半身を潰されたまま、茫洋と地面を見ている亡者がいる。


 鬱血しているのか呼吸困難なのか、肌はどす黒くなっており、腐乱一歩手前の死体かと勘違いしてもおかしくないレベルだ。


「殺しもしないし、転生もさせない。あいつが心の底から反省することなんてないから安心して潰してるのさ」


「いいのか? 獄卒が亡者に手を出したら………」


「天国が地獄を作り変える前の話だからノーカンさ。多分………」


「多分か」


 その時、リョウの頭上から光が差し込んできた。


『そこの獄卒、なにをしているのですか』


 見上げると、シースルーの羽衣を纏った天女が降臨してくるところだった。

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