第75話 リョウちゃん、受苦無有数量処に行く。

 再生したリョウは、金棒で磨り潰される痛みはもう勘弁だと思った。


 しかし磨り潰されながらもベアトリス愛のビキニブラを剥ぎ取って、筋肉のせいで小ぶりな胸の突起をつまんでやったことには満足している。そのせいで加速度的に磨り潰されて、肉体は砂のようになったのだが。


「今度やったら途中まですりつぶしても、死なないようにしてやる」


 ブラを付け直しながらベアトリス愛が睨む。


「それと、そんなにこの中が見たいのなら、女装して行きな」


「あ、そこまでじゃないんで」


 プライドと天秤にかけた結果、リョウは直ぐさま折れた。


「どうせ大叫喚地獄はどこも似たり寄ったりさ。ここじゃなくても、ね。ほら見てごらん」


 ベアトリス愛はリョウの首を掴んで持ち上げた。扱いが雑だ。


「くけっ」という苦しそうな声を出してしまったが、持ち上げられてあたりを見回したリョウは苦鳴を止めた。


「あっちが受苦無有数量処じゅくむうすうりょうしょだ。東雲は御用で付き添えないから、あたいが行くよ」


「えー」


「あからさまに嫌そうな顔するんじゃねぇよ、次は顎先全部握りつぶすぞ」


「ふいまへん(すいません)」


 顎を掴まれてするリョウは、仕方なく阿傍羅刹あぼうらせつの『ベアトリス・愛』に付き添われて次の小地獄に向かった。






 受苦無有数量処じゅくむうすうりょうしょ


 嘘をでっち上げて、目上の人を陥れた者が堕ちる地獄で、昔は獄卒に打たれた傷口に草を植えられ、それが成長し根を張ったところで引き抜かれるという刑苦だった。


 今では森ガールファッションのガーデニング女子亡者達が、アハハウフフとプランターに水を浴びせている。


 しかしここにいる連中は「嘘をでっち上げて、目上の人を陥れた者」だ。


 試しに、虫一匹殺せなさそうなに「見透かしの珠」を向ける。


 仕事を終わらせず定時に帰ろうとする → 上司に「無理に仕事詰め込んでるわけでもないんだし、終わらせてくれない?」と言われる → 『私ぃ、松井さん(上司)に虐められててぇ』と同僚その他に言いふらす → 上司、パワハラで減俸。


 あー、いいなー、私もそれ食べたぁい → 上司が個人的に買っていたお菓子を強奪して全部食べる → 『松井さんが私にお菓子くれるんですぅ。ダイエットしてるのにぃ~、困るぅ~』 → 上司、モラハラで減俸。


 松井さぁん、凄い筋肉ぅ~、触っていいですかぁ? → 周りから「そんなボディタッチするのやめなよ」と注意される → 『私、無理やりに、俺に触れって言われて………』 → 上司、セクハラで減俸。


 私酔っ払った~ → 松井さぁん、送ってぇ~ってか、タクシー代ちょうらぁ~い? → むしろ松井さぁん、抱いて♡ → 奥さんにバレる → 『結婚しているなんて知りませんでした。私のほうが被害者です』 →上司、離婚、懲戒解雇、自殺。


 私悪くなくなぁ~い? ま、ここ楽しいからいいけどぉ~と、言いながらここに至る。


 胸糞の悪さではなかなかのレベルだが、見渡す限りそんな女ばかりのようだ。


 ウソツキ同士が集まるとどうなるか………嘘を嘘で塗り固めたような連中なので、他人の嘘を見抜くスキルは高い。「自己紹介おつ」と言いたくなるほど、他人の嘘を許容できないのがウソツキの特徴だ。


 その結果、ここにいる「ゆるふわ」たちは、疑心暗鬼の真っ只中にいて、どいつもこいつもアハハウフフとしているのに、誰とも会話していないで、花に水をやりながら「綺麗なお花になぁ~れ」と夢見る少女のようなことを言って過ごしている。


 この地獄が与えた殺伐さではない。ここの亡者同士で作り上げた殺伐とした世界だ。


「昔、亡者どもの傷口に植えていた吸血樹の種がこれな」


 ベアトリス愛がビキニパンツの中から種を取り出した。


「ドコから出してんだよ………」


「女にゃ4次元ポ「わかった、もういい。次いこ、次」


「ん? いいのかい? ここにいるムカつく亡者に罰を与えたりするのが好きなんだろ?」


「お前、俺のことを何だと聞いてるんだ?」


「聞いてるも何も、地獄の獄卒の間じゃ有名人さ。世直しならぬ地獄直しをやってる亡者がいるってね」


「………」


 そんなつもりがないわけではない。


 現世で人を苦しめてきた悪人が、正しく苦しめられる地獄であって欲しいとは思う。だが、有名になるほど活躍したつもりはない。


 もしも今の自分の立ち位置が「仕込まれた」ものだとしたら、仕込んだのは東雲だろう。


 リョウが想像するに、東雲の計画は、こうだ。


 地獄で言わせていたせいで、強制的に人間に転生させられて記憶もなくした大悪党が昔の自分リョウで、またさせるために地獄巡りさせて、かつての地獄を取り戻そうとしている………。


 その計画に乗るか、反るか。


 リョウは「ううむ」と頭を抱えた。


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