大叫喚地獄変

第73話 リョウちゃん、大叫喚地獄に行く。

 これまでいた「叫喚きょうかん地獄」は、大まかに言うと殺生、盗み、邪淫、飲酒の罪で堕ちる地獄だった。


「で、次は大叫喚地獄になります」


 東雲がにへらと笑ったのは、リョウが「また叫喚地獄かよ!」と、ツッコミをいれると想定してのことだった。


 しかし、リョウは「ふーん」とあしらうような雰囲気だった。


「大叫喚地獄は、叫喚地獄の罪状に加えて『妄語』の罪で堕ちる地獄です」


 少し躍起になって東雲が興味を惹かせようと口調を強めるが、それでもリョウは「ふーん」である。


「………こほん。ここは叫喚地獄の10倍の責め苦を受ける地獄でして、6821兆1200億年頑張れば強制的に成仏できます」


 もはやその無量大数のような数字にリョウは興味の欠片も持っていなかった。


「もちろんここにも十六小地獄があるのですが────16と言いながら実は18の小地獄があります」


「ふぁ?」


 やっとリョウが興味を持ったので、東雲は意気揚々と語りだす。


「きっと地獄を作った方が適当に考えた結果ですね。面倒になって数字合わせもしなかったのか十六小地獄という設定自体をしていたのでしょう」


「ほんと適当なんだな」


「ええ。そしてこの大叫喚地獄は先程も言いましたがウソツキが堕ちる地獄です。ろくな人間はいません」


「地獄にまともな人間がいたらそれはそれで問題だろ」


「どうしたんですか山内さん!? やけに冷静じゃないですか!?」


「いや………なんで俺は他の亡者と違って一人だけ地獄巡りさせられてんだろうって疑問が「では小地獄を見に行きましょうか」


 リョウの言葉を遮るように東雲は指を弾いた。


 視界が一瞬にして変わったとしても、リョウの気分まで変わるわけではない。


『こいつ、ほんとに何を企んでるんだ』


 リョウがいぶかしげに東雲を睨んでも、当の本人は「にへら」としているだけだった。


「ここは吼々処くくしょと申しまして、恩を仇で返した者や友人に嘘をついた者が堕ちてくる地獄です。昔は亡者の顎に穴をあけてそこから舌を引き出し、その舌先に毒の泥を塗りました。すると舌先が毒で焼け爛れ、そこに毒虫がたかるという毒々しい責め苦を与えていました」


「わざわざ顎に穴開ける理由は?」


「舌を噛み切って楽になろうとかできないように、ですかね?」


「疑問形かよ」


「私が設定した地獄ではないので」


「で? 恒例の質問するけど………今はどんだけ過保護な感じになってんだ?」


「エステですね」


「エステ………」


「泥パックとか」


「泥パック………」


「なぜか大叫喚地獄には女性亡者が多くて。エステは人気なんです」


「女が多い? ウソツキが堕ちる所………女のほうがウソツキってことか?」


「わー、今日超綺麗じゃなぁ~い? とか言いつつ内心は『いつもうぜぇんだよこのクソブスが』とか思っていたりするも罪になりますからねぇ」


「それで誰が損をするんだ?」


「損得ではなく嘘はよくない、という道徳的な………」


「救われる嘘だってあるだろうが。もう助からないかもしれない重症患者に医者がバカ正直に『あなたはもう死にますから!』って声かけるか? 激ブスに向かって毎日『おはようブス』って言うか? イジメだろ、そんなの」


「言わぬが花とも言いますがね。では山内さんはどういう嘘なら許さないのですか?」


「ここは恩を仇で返した奴とか友達に嘘をついた奴が堕ちるんだったけ?」


「ええ、そのとおりです」


「恩を仇で返す奴は許せねぇなぁ………」


 地獄巡りに多少飽きてきたと思わしきリョウが、少しばかり怒りの気を見せたことで、東雲は安堵した。

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