第71話 リョウちゃん、ブラック企業に行く。

 リョウが東雲に連れられてきた次なる地獄は叫喚地獄の一つ、火雲霧処かうんむしょ


 他人に酒を飲ませて酔わせ、物笑いにした者が落ちる。


 おそらく酒を飲んだ者の殆どが堕ちるであろう地獄だ。


 昔は地面から100メートルの高さまで吹き上がる炎の熱風で舞い上げられ、空中で木の葉のように回転するうちに縄のようにねじれ、ついには消滅してしまうという、やったことに対して罰が重すぎる刑場だった。


 いまはどうなっているのかというと、似非スカイダイビング施設だ。


 なにが似非なのかというと、飛行機で大空多角から飛び降りるのがスカイダイビングの本筋だとしたら、ここは地上から吹き上げる風を利用して、地上から空に浮き上がり、パラシュートで降りてくるというものだ。


 最近日本でも室内スカイダイビングとしてお目見えしたばかりの代物が、地獄の自然環境を応用して数世紀前から存在していたらしい。


 もちろん遊んでいくものだろうと思っていたが、東雲は案内もそこそこに「さ、次が叫喚地獄の最後、分別苦処ふんべつくしょです」と端折ろうとした。


「おいおい、ここはもういいのかよ」


「私、並ぶの嫌いなんです」


 さすがに罪状が罪状だけにこの地獄は大人気で、かなりの亡者がいる。


 あちこちに設置された似非スカイダイビング場は、地平線の先まで点在しているがどこもかしこも、獲物に群がる蟻のように亡者が列を成している。


 地獄だというより律儀に列を作って順番待ちする日本人の気質に思わず苦笑するリョウだったが、たしかにあの列に並んでまで遊びたいと思うほどではなかった。


「次の分別苦処ふんべつくしょなんですが、使用人に酒を与えて勇気付けた挙句、動物を殺生させた者が落ちるという歪な地獄でして」


「まず金持ち限定って感じだな」


「ああ、失礼。使用人とは執事とかメイドだと思ってます? 念のため言いますが、従業員も含みますので」


「お、おう」


「なので、畜産農家の社長がスタッフに酒を振る舞っただけで堕ちます」


「理不尽極まりないな」


「まぁ、その分だけ刑罰が微妙でして。獄卒がいろいろと苦しみを与えた上で、説教して反省させ、またさらに様々な苦悩を与える、という繰り返しだったそうです………それでは早速」


 東雲が指を鳴らすとリョウの視界は一変し、無機質なオフィスの中にいた。


 心休まるものは視界に一切置いていない。


 壁に掲げられた社是には「一に責任、二に経営者感覚、三に飽くなき挑戦、四に感謝」とヤバそうなことが書いてある。


 責任をもつのは経営者であって、従業員ではない。


 経営者感覚を従業員に求めても、従業員の給料は変わらない。


 飽くなき挑戦とは無理してでも挑戦し続けろという意味だが、安定がないと人は死ぬ。


 感謝と広義に書いてあるが、顧客や取引先に感謝という意味ではなく、給料払ってる会社や社長に感謝しろという意味だろう。


「あぁ、ここ、ブラック企業や」

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