第66話 リョウちゃん、八寒地獄を一瞬でクリアする。

「加根古さーん、あなたは実家がお寺ですよねーー!」


「そうでええええす!」


「こうみょうしんごん、いってみましょうかー!」


「宗派がぁぁぁぁぁぁ違いまーす!!」


 猛吹雪と轟音の突風で、至近距離にいながら東雲と加根古の声は殆ど聞こえない。


 リョウは死ぬかと思っている。


 糞寒い。


 死に装束姿で来るようなところじゃない。


「山内さぁぁぁぁん、ここは嗢鉢羅うばら地獄ですぅぅぅぅ!」


「それはいいから、はやく要件済ませろ!!」


 実は八寒地獄もしっかり天国の監査が入り、凍死を促すような罰は禁じられている。


 八寒地獄のどこに行っても雪山だが、ちゃんとロッジがあったりする「ウインターバカンス地獄」になっていた。


 それぞれの地獄がスキー、バイアスロン、クロスカントリー、スノーボード、スノーホッケー、アイススケート、ボブスレー、カーリングに対応しているらしい。


 この嗢鉢羅うばら地獄は6番目で、アイススケートが楽しめる。


 もちろんこのあたりでバカンスを楽しんでいる獄卒は温かいウェアを装備しているし、亡者も雪山仕様のダウンのようなモコモコした死に装束をまとっている。


 生足と薄い死に装束一枚で来るべきところではない。


「はよ! はよ!」


 リョウが地団駄を踏んで促す。


 加根古への救済。


 それはこの八寒地獄で光明真言こうみょうしんごんとやらを100回唱えたら昇天できるという簡単なものだった。が、どうやら宗派が違うらしい。


「光明真言はこれですね」


 東雲はメモ紙を加根古に渡した。


「獄卒が光明真言なんか唱えた日には悶え苦しんでしまいますからご勘弁を」


「え、ええと………オン、アボキヤ、バイローシャナ、マカボダラ、マニハド、マジン、バラハラ、バリタヤ、ウン?」


「疑問形にしないで読み上げてください」


「うちの宗派じゃないし………てか、これ………意味もわからず唱えても意味ないでしょう?」


「100回言えば昇天するという約束に違えることはありません。意味なんかどうでもいいんです、さぁ、早く!」


 東雲も寒いらしく仕事が雑だ。


 途中で寒さのあまりに言葉を噛むと最初からやり直し。


 結構な地獄だ。


「なぁ、これ、この糞寒い外でやらなくても、バンガローとかロッジの室内で、暖炉の前とかでやっても同じなんじゃないか? その地獄の中でやればいいとしか書いてないんだろ?」


 リョウが言うと、東雲は「はっ!?」とした顔をした。











 光の道がバンガローの窓から差込み、加根古はその光の中で消えていった。


 次の人生では「ただの良い人」だけではない人になってもらいたい。


「強制昇天完了」


 東雲はやりきったという顔をした。


 昇天を強制的にできる辺りで、地獄の存在理由がますますわからなくなったリョウだったが、知り合いが救われただけで良しとした。


「で、せっかく八寒地獄に来たんだから、スノボやっていい?」


「駄目です。まだ叫喚地獄の芭蕉烟林処ばしょうえんりんしょから先を見てませんし」

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