第62話 リョウちゃん、欺瞞を暴く。

 呂布和恵。38歳。見た目は20代中頃。


 その脅威の若作りテクニックにリョウは唖然となった。


 生前は幾多の男を虜にし、なんと8回も結婚している。


 日本の法律では女性は離婚後半年は再婚できない。その条件下で8回も結婚しているのだから、凄まじい集客率と成約率だ。


 ただ、それより恐ろしいことに、この女の亭主は大体高齢の資産家で、結婚後半年前後で死亡している。しかも多額の保険金を掛けてから、だ。


 生前彼女が得た保険金総額は驚きの14億円。資産の分与も含めると、40億円は男たちから得ている。


 さすがに8回も亭主が財産残して死んでいたら、法治国家日本なら黙っていないだろうと思いきや、税務署、警察、裁判官………あらゆる司法の男たちも籠絡して事なきを得ていた。


 まさに魔性。傾国の女だ。


 しかし、和恵にそれほどの魅力があるかと言われたら、ニーハイソックスのチラ見せ以外には大したものではない。


 平均的な日本人体型の日本人顔………そんな彼女が這い上がった秘訣は「オタサーの姫」になることだ。


 モテない男たちのグループの中で競争心を煽り、全員を切磋琢磨させつつ自分にメロメロにし、最終的には資産家が勝つようなルートを作り出し、保険に入らせ、外堀を埋めて結婚せざるを得ない状況を作り、あとはをするだけ………すべてが計算尽くだ。


 しかもちゃんと自分の容姿についても調べが出来ている。


 美人と普通。どっちの女のほうがモテるかと言えば美人だろう。


 だが、いざ付き合うとか結婚するとなった場合、モテない男たちは「なんでこんな美人が俺と? これは怪しい」と考えてしまう。


 その点、普通の顔立ちの女なら警戒されない。


 普通顔で男に対してある種の安心感を与えるだけでなく、恋愛経験がない彼らにとっても接しやすいポジションを得る。それは警戒心を持たれる美女にはない強みだ。


 金と時間と労力を使ってターゲットの理想の女を演じるのは二流。金の話でヒステリックになったり泣き落としたりと、女の感情を剥き出しにするのは三流だ。


 金にも財産にも興味ない。興味があるのはあなた(の死後)だけ。その姿勢を貫く。貫くためには自分をも洗脳して信じ込ませる。この男が一番だ、と。


 そして、いよいよの時、彼女は鬼女になる。良心の呵責一つなく、愛囁いていた相手に致死量の毒を盛れるのだ。


 そんな和恵にも年貢の納め時が来て、一人殺しそびれたことから事態が発覚して逮捕。余罪含め、即刻死刑判決を受け、こうして地獄に堕ちたわけだ。が、まさか地獄でも同じことをやっているとは。


 しかもこの女の根底にあるのは


「私と付き合えて結婚できたんだから幸せだったでしょう?」

「残された私に財産を与えるのは当然の義務」

「私だって好きで殺したんじゃない。みんな年寄りだし介護とか大変だからよ」


 という自分本位の「私、悪くないもん」だけだ。


 彼女を愛し、真剣に残りの人生を考えてきた男たちの想いがリョウに入り込んでくる。


 その想いの中身にリョウは驚きを隠せなかった。


 彼らは殺された恨みつらみよりも、死後も彼女を心配している────真摯な愛が入り込んでくるのだ。


『死んでもいい。彼女が幸せであれば』


 殺されてもなお………それほどに純愛だったのだろう。


 しかしその女、和恵に死者の想いは届かない。聞く耳もないだろう。


 彼女が求めるのは即物的な、目に見える価値である【金】だけだ。


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