第61話 リョウちゃん、バトらない。

「俺のターン! 攻撃表示でアレをこれして墓場からナニが復活!」

「私のターン! キタコレ! 相手フィールドのカード全消滅!!」

「僕のターン! この手に持った地獄の殺生石で相手プレイヤーを殴打!」

「はい、アウトー」


 獄卒は、拳大の石を持って暴れ出したプレイヤー亡者を捕まえ、バトルフィールドの外に連れていく。


 そんなカードバトルが繰り広げられている中、逃げ惑っている加根古かねこさんを追いかけているのは基本的に1人のようだ。が、その手下と思われる者たちが何人も追従している。


 逃げ回ると言っても円を描くように廻っているだけなので、リョウは進行ルートで待ち構えて、必死の形相をしている加根古さんを捕らえた。


「ひいっ!?」


「加根古さん、俺です、リョウです」


「リョウちゃん!? あ、どいて! 追いつかれる!」


「どうしたんですか」


「追われてるから! 逃げないと!」


「まぁまぁ、落ち着いて。話付けましょうや」


 そのやり取りの間に追いついた男たちが二人を囲む。


「なんだてめぇは。お前もあいつの情夫イロか!?」


 追跡者のリーダー格が吠える。


『加根古さん、あいつって誰のこと?』

『やばい女に引っかかっちゃって………』

『あぁ』


 リョウはその言葉だけで事情を把握した。


 きっと加根古さんは人の女に手を出したんだろう。


 客の色恋沙汰には基本的にはノータッチなのがバーテンだが、ここは地獄で加根古さんは知り合いだ。放っとくことは出来ない。


「俺、この人の知り合いなんだけど、追っかけてる理由聞いていいか?」


「俺の女を寝取ろうとしていやがったんだよ」


「加根古さんがぁ?」


 良い人を絵に書いて額縁に入れて飾ってしまいたくなるような人柄の加根古さんが、そんな危ない橋を渡るとは思えない。


 そこからバトルフィールドのど真ん中で円陣を組むように全員が座り、会議が行われた。東雲も遠巻きに見ている。


 追跡者のリーダーはと名乗った。


 身長は日本人らしからぬ体格の、実に2メートルを超える大男で、獄卒だと言われても納得してしまうだろう。


 その銀之字は案外冷静に話を進めてくれた。


 曰く、銀之字の相方たる女亡者「和恵」が何人もの男亡者をたらし込んでおり、ひとりひとりその達をいる最中なのだとか。


「で、その女とやったの?」


「や、やってない! 酔っ払った和恵さんを寝所に送っただけなんだ! そしたらこんな目に!」


 加根古さんは必死に否定した。


「俺が現れなかったらやってんだろうが。なんで浴衣着てんだよ。一緒に寝所入ったんだろうが」


 銀之字が低い声で凄むと、加根古さんは「ひぃ」と鳴いた。


「うーん? 男連れ込む女のほうが悪くね?」


「いいや。俺の女だと知りながらついていった男が悪い」


「し、し、しらなかったから! 彼氏いるなんて知らなかったから!」


 三人があーだこーだと言葉を並べていると、銀之字の取り巻きの一人が「あ」と声を出して余所を指差した。


 メガネを掛け、死に装束を短くめくってニーハイソックスをチラチラ見せている女が、嬉々とした表情で男の腕にしがみついて歩いている。こちらには見向きもしない。


「和恵………って、あの男、俺の女を………」


 銀之字が立ち上がろうとするのをリョウは留めた。


 そして、そっと見透かしの珠を取り出して、女亡者を見る。


 リョウの頭に流れ込んできた情報はひどいものだった。

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