第60話 リョウちゃん、カードバトルに参加する。

 剣林処けんりんしょ


 荒野を旅する人をだまして泥酔させ、持ち物や命を奪った者が落ちる。


 昔は燃え盛る石の雨を浴び、沸騰した血と銅汁と白蝋の渦巻く河の中で獄卒に刀や殻竿で打たれる罰を受けていた。


「意外と亡者がいるな………現代の日本でそんな物取りがまだいるのか」


「山内さんの時代は民泊とかいうのが流行っているのでしょう? そこで結構やらかしてるそうです。まぁ民泊の過半数は外国人がやっているので死後はの地獄に行ってもらっていますが」


「………はぁ。世も末だわ。日本人の良心はどこ行った」


「なぜ山内さんが『日本人は良心の塊だ』と思っているのかわかりませんが、国や性別や肌の色が違っても、人はみんなどこでもこんな感じですよ」


「そりゃそうだ。別に妄信的に日本人は素晴らしいなんて思っちゃいねぇよ。けどなんか昔はもっと悪い奴と良い奴がちゃんと揃ってた気がするんだ。今は悪いヤツと見て見ぬふりするやつしかいない」


「そうですかね。昔というのは山内さんが子供の頃ですか? あなたが子供だったから周りは優しかったし、注意もしてくれたのです。人の業は何千年も昔から、時代がどんなに遷ろっても大差ないのです」


「………」


「さてさて、そんなことはどうでもいいのです」


「どうでもいいって……」


「今はこの剣林処けんりんしょは刑罰が出来なくて使い道がないので、超大型のゲームフィールドになっていますが、どうします?」


「ゲームフィールド?」


「最初に獄卒からカードを10枚貰います。カードには攻撃、防御、特殊の3種類がありまして、カードのレアリティによって強さや効果内容が違います」


「………」


「それで亡者同士でバトルして勝ったら相手のカードを総取りです。負けた人は一からやり直し。で、最終的にレアカードの『J』『I』『G』『O』『K』『U』を揃えて獄卒のところに持っていくと、晴れて昇天して転生できます」


「カードバトルか………楽しそうな気もしないでもない」


「ちなみに、ここにいる亡者は人のものを盗んだり殺したりする連中ですからねぇ。カードを奪うためにならなんでもしますよ。正々堂々バトルするのは僅かです。殆どが不意打ちとか集団でリンチとか寝込みを襲うとかいう方法でカードを奪いますから」


「カード関係ないやり口だな、おい」


「やります?」


「いや、めんどくせぇ………あれ?」


 リョウは亡者たちに追われている男を見つけた。


 白いタンクトップで浴衣の上半分をはだけさせているが、下は帯で縛っている。タンクトップが白いサラシで和柄の入れ墨でも入っていたら、まるで昭和初期や戦後の博徒みたいな格好だが、あれは………。


加根古かねこさん!?」


 リョウが務めていたバーによく来てくれていたお客さんだ。


 人柄が良く、ホトケの加根古と呼ばれていた人で、たまにプライベートで飲んだりもしていた。


 いつ、どうして死んでしまったのか。


 それよりどうして浴衣姿で他の亡者に追われているのか。


「あの方はお知り合いですか? 助けるのならバトルフィールドに入らないといけませんが、ゲームに参加することになりますよ?」


「見て見ぬふりは出来ないからな。参加させてもらうぜ」

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