第57話 リョウちゃん、ダーツをする。

 鉄林曠野処てつりんこうやしょ


 酒に毒薬を混ぜて人に与えた者が落ちる。


 ここに落ちた亡者は燃え盛る鉄の車輪に縛り付けられ、回転させたところを的当てのごとく弓で射られる地獄


「ちょっとまて、なにこの地獄! 俺もやりたい!!」


「でしたら、そこのショップで買ってください」


「東雲、金貸して」


 鉄林曠野処は見渡す限りすべてダーツ台が置かれたダーツ・バーになっていた。


 しかもリョウも知らないダーツ筐体で「ダーツライフ10」と書いてある。


 一昔前ならプール・バーの片隅においてある程度だったダーツは、市民権を得て専用のバーも出来た。


 ちなみにプール・バーの「プール」とは、ビリヤードのテーブルの別名である。以前のビリヤードテーブルは、ポケットにボールが溜まる方式で一箇所に流れ落ちてこなかった。この事からボールがプール(める)される台=プールと呼ばれるようになった、らしい。


 そしてダーツだが、リョウも一家言いっかげん持っている。


「これでも足立区じゃBULLブル山内と呼ばれた男だぜ」


 慎重にダーツを選ぶ。ハウスダーツのような軽いものは選ばない。


 バレルと呼ばれるダーツの本体は、指がグリップしやすく先端に重心があるものを選ぶ。


 シャフトと呼ばれる後ろのフライトとを繋ぐ部分はMサイズ。Sだと手にあたるしLだと長過ぎてコントロールが狂う。


 で後ろのフライトはシャフトと一体型のものだ。それが別々のパーツだとよく外れてイライラするのだ。


 ダーツの先端、突き刺さる部分をティップと言うが、これは大したこだわりがない。


「よし、地獄の俺ダーツ完成」


「300円です」


「マジで!?」


 普通、どんなに安くても3000円以上するし、バレルなら1万円オーバーしててもおかしくないのに、激安だった。


 地獄の沙汰も金次第とはいえ、こんなに安いと労働の意図も失われるだろう。


 そもそも地獄のアイテムのほとんどは人間界にあるもので、地獄で製造しなくても「お供え」されると地獄に送られてくるものらしい。


 ということはここのダーツもすべてお供えされたものなのか………。


「ダーツ好きの方と一緒に埋葬されたものです」


「お、おう………」


「で、マイダーツを手に入れたようなので、一勝負していきますか」


 東雲がスーツのジャケットを脱いだ。


 まさか銃のホルスターみたく、ダーツケースを脇にぶら下げていようとは。


「お、お前まさか、ダーツの評価レーティング……」


「20です」


「いやいやダーツの評価レーティングは18までしかないだろ」


「地獄では20まであるんですよ。じゃあカウントアップでもやりますか」


 東雲はダーツ盤のど真ん中………ブルの更に中心にある「ダブルブル(もしくはインブル)」に三本刺した。


 続くリョウは全く真ん中に入らない。


 しかも点数は1、1、3。もやしも買えないような数字だ。


「ちなみに山内さんの評価レーティングは?」


「…………3だ」


「なんですって?」


「3」


「それ初心者じゃないですか。やだなぁ、ははは」


 東雲は20のトリプルに3本突き刺した。


 ダーツ盤の中で最も高い点数を叩き出せるところだ。


「」


 リョウは完全に心が折れ、それ以降は力なくダーツを投げ続ける作業と化した。


「お前とは二度とダーツしない」


 10ゲームやって一度も勝てないどころか、相当なハンディキャップ貰ってもピクリとも勝てる気がしなかったリョウは吐き捨てるように言った。


「ふふふ。さてさて、次は普闇処ふあんしょです。そこは酒を売る仕事をしながら、人の無知に付け込んで、少しの酒を高価な値段で売った者が落ちる地獄でして、確実に山内さんが行くであろう所です」


「いやまて。値付けは俺じゃない。オーナーのMr・Jだぞ。それに仕入れより高く売らないと商売にならないだろうが」


「ふむふむ。ちなみにそこでは真っ暗闇の中で獄卒に散々に打たれて、その後から炎の中で頭から二つに引き裂かれるという刑場でしたが、酒を高く売っただけでその仕打ちはあんまりだと天国から強いクレームが来ましてね」


「そりゃ天国に同意だ」


「なので今では暗闇を利用して宿泊施設になってます。真の闇の中でゆっくり眠れますよ」


「俺、少し明るいくらいじゃないと眠れない。真っ暗とか怖くない?」


「実は山内さん、もう一週間くらい寝もせずに地獄めぐりしているんですよ」


「なに!?」


「自覚ないでしょうけど、少し休まれたほうがいいですよ。まだまだ先は長いのですから」

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