第56話 リョウちゃん、XXX(トリプルエックスレイテッド)。

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       作者:注

 普段の三倍近い文量になっているのは

    卑猥な地獄のせいです

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「………」


 炎をまとった丸い石が飛び出てくるのを、獄卒と亡者はそれぞれのブースに備えられた安物の金棒で打ち返している。


 炎石の雨が降り注いで亡者を撃ち殺していたという世界は、バッティングセンターになっていたようだ。


 それでもファールボール(?)が当たれば石だし、燃えているし、多少は危険だ。


「叫喚地獄ですから、それくらいの危険はないと………はぁ………」


 東雲は残念そうに言った。


 地獄がヌルくなったことを指して残念がっているのではない。バッターボックスに立っている者達のへっぴり腰を見て、ため息をついたのだ。


「あの獄卒達、腰がひけててダメですね。もっと腰を低くして軸を………」


「なんだ東雲、野球好きなのか?」


「はい、私、地獄甲子園でてますから」


「マジか。って甲子園? え? お前は地獄で高校生? は? 嫁? え?」


「混乱しないでください。地獄甲子園は獄卒のイベントですから学生じゃなくてもやるんですよ。さてさて、次の刑場に行きましょうか」


 溶けた銅と血が混ざった河に亡者たちを突き落とし、焼かれながら溺れさせていた場所は────スワンボート乗り場になっていた。


 落ちたら一巻の終わりだが、河の流れは穏やかで、亡者同士とか獄卒同士のカップルがイチャイチャしながらスワンボートを足こぎしている。


「なんでこうも獄卒と亡者が一緒になって地獄楽しんでいるんだ」


「他に娯楽ありませんからねぇ」


「てか、ここのスワンボート超頑丈じゃないか?」


「実はあのスワンボート、ただのイチャコラバカップル用足漕ぎ乗り物じゃないんですよ。フィンスタビライザーにはあの有名な超便利粒子、ミノフス………」


「はいはい、その変な粒子はどうでもいいとして、なに? 東雲ってば、リア充のことが嫌いなの?」


「リア充といいますか………妻子を殺され亡くした私としましては、地獄で罪人共がのほほんと幸せそうにデートしている光景なんて毒でしかありませんからね。ここにいる亡者どもは全員幸せを享受する資格などないのですよ、本来は」


 忘れるところだったが、東雲の抱えている闇は深い。


 リョウは触れてはならない部分だと認識し「次の刑場行こうぜ」と促した。


 次は体全部から炎を出してる巨大象に踏み殺される場所だが………炎をまとった象が亡者の背中を優しく踏んでマッサージしている光景が広がっていた。


「あの象の熱と適度な重さ加減が人気なんだそうです」


「え、大丈夫なのか? 象だぞ?」


「大丈夫といいますか、踏み潰して欲しいところなんですがね」


「まだ闇を引きずってる!?」


「実は象の足の裏には神経が密集していて、死角にある卵も割らずに足を回避させることができるくらい慎重に歩くんですよ。力加減はプロです」


「プロ………」


「ま、ここはこの程度ですが、次の地獄がお楽しみですよ」


「次はどんなところだ?」


「殺す殺す所、と書いて殺殺処せつせつしょといいます。貞淑な婦人に酒を飲ませて酔わせて関係した者が落ちるところです」


「そこ、飛ばさないか?」


「ダメですよ山内さん。身に覚えがあるのでしたらぜひ見学しておくべきですから」


 東雲は渾身の「にへら」を浮かべた。








 八大地獄が一つ、叫喚地獄。


 その叫喚地獄の中には十六小地獄があり、その一つがこの殺殺処せつせつしょである。


 ここに堕ちる亡者は、生前に貞淑な婦人に酒を飲ませ、酔わせて肉体関係を持った者で、昔であれば獄卒たちが熱鉄の鉤で罪人の男根を引き抜き、抜かれるたびに再生し、また引き抜かれるという、まさに地獄だった。


 それが『天国に指導された』今ではどうなっているのか。


「え」


 二つ前の「熱鉄火杵処ねつてっかしょしょ」の燻製よりもいい匂いが立ち込めている。これはどう思い出しても松茸の芳しさだ。


 だが、目の前に広がる光景を見て、それは絶対気のせいだと思いたかった。


 見渡す限り地面から生えているのは松茸………ではなく、モザイク無しには語れない、リョウも見慣れた男の股間の何かが群生している。


「昔獄卒たちがちょん切ったが自然と生えるようになりまして」


「嘘だろおい! 視界全部にモザイクかけてくれ!」


「大きいほうが香りもいいし歯ごたえがあって食感も良いそうですが、どうされます?」


「どうされますか!? はぁ!? これ食うのかよ!!」


「XXXの土瓶蒸し、XXXごはん、焼きXXX………」


「食いたくないし、見たくもない」


 よくみると女獄卒や女亡者たちが竹籠片手に松茸狩りならぬXXX狩りをやっている。


「あー、これ超長い、うけるー」


 ぶちっ


「これ、かさ………じゃなくて、かXが開いて美味しそう」


 ぶちっ


「みてみて、このXXX、缶コーヒー並にふっとい。すごくない?」


 ぶちっ


「おい、東雲。自分のじゃないのに股間が痛くなってきたぞ?」


「偶然ですね。私もです」


「女達がスンスンと匂い嗅いでるシーンはとんでもなく卑猥だけど、天国からクレームとか、公序良俗的な何かでお取り潰しとかされないのか? 大丈夫か、いろんな意味で大丈夫か!?」


「そう焦らないでください。それに山内さんが堕ちるとしたらここでしょうからじっくり見ていってください。」


「じっくりもちらっとも見たくない光景だぞ! いやまて………俺が女酔わせてったみたいなことを前提に言うなよ」


「やってないんですか?」


「泥酔した女とやってみ!? ほんと動かないし下手すると寝ゲロするし、自分で動けるくらいの時じゃないと無理だから!」


「やってるじゃないですか」


「人から聞いたお話ですがなにか」


 急に真顔になるリョウを横目に、東雲はにへらと笑う。


「それはそうと、ここに落ちた亡者のはなにをしているのかわかります?」


 確かに見渡す限り女しかいないようだが………。


「まさか寝転がって女に刈り取られるのを待ってるとか言うなよ?」


「まさか。男の役目は女達が摘んできたXXXを食べさせてもらうことです」


「え」


「刑罰ですからね、一応。ここに落ちた亡者は最初こそ抵抗しますが、1ヶ月もすると慣れるようです。ちなみに食べさせられている間は拘束時間として給金がでます」


「つまり松茸食いながら金もらってるのか」


「松茸じゃないんですけどね」


「………なんとも言えない微妙な感じだな。嫌だけど耐えられるというかなんというか……」


「ちなみに食い飽きた男の亡者たちがレシピサイトも作っていますよ。見ますか?」


「うわぁ………すげぇアホな料理図しかない。って、そのスマフォすげぇな。なにそれ! 画像が宙に浮いてる!」


「2150年ごろに販売されたタイプのスマートメディア【アイポンXXXトリプルエックス】です。この機種は殺殺処せつせつしょだけで使えます」


「日本の地獄の獄卒が海外製スマフォを………って、2150年!?」


「地獄では時間の流れが違うと申しましたよ。ここは過去も未来も一緒くたなんです」


「てかXXXトリプルエックスってさ、アメリカだとポルノの激しさXの数で示すって知ってた? XXXが一番激しいって意味なんだけど、そんな名前つけてんのか、それ」


「だからこの殺殺処せつせつしょだけでしか使えないのですよ。XXXだけに」


「ま、まぁ視界全部モザイクだし………って、もういいわ! 次行くぞ!」

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