第55話 リョウちゃん、雨炎火石処に行く。

 鳩殺しは両足の筋を切られ、悲鳴を上げながら這いずり回って逃げようとしている。


 猫殺しには何もしなかった────リョウは、だが。


 猫殺しを引き渡したら、阿傍羅刹あぼうらせつの岩本猫又士は憤怒で顔色がどす黒く変わっていた。


「いやぁ、名前からして猫好きなんだろうなーとは思ってました」


 猫殺しを受け取ると、礼もそこそこに岩本猫又士は天国の目が届かない会員制クラブを呼び出した。


 地中から出てきた黒い建物の中でこれから起きることは、きっと天国には知らされないだろう。


「たす、た、たすけて………」


 黒い扉が閉まる先の闇の中から、猫殺しが手を伸ばそうとしていたが、金髪の赤い巨人がその腕を綺麗に肘から反対側にへし折るのだけは見えた。


 新川くんは、骨が折れる音は「ポキっ」という感じかと思ったが、へし折ると「パァン!」と割れるような音がするんだな、と初めて知った。


「そういや新川くん。なんかあったらMr・Jに言えばどうにかできると思うぜ。ここのオーナーやってるらしいし」


 リョウが言うと、新川くんは目を大きくした。


「はぁ!? Jさんが!?」


「実は獄卒が本業らしい」


「うそでしょ………」


「むしろあなた、ここで働かせてもらったらどうでしょうかねぇ? バーテン経験が活きそうですし」


 いつの間にか横にいた東雲に促されるがまま、新川くんは黒いビルの中に入っていった。


 別れ際、リョウを見る目が少し怯えていたが気にしないことにした。


「いやぁ、今回はちょっと小物でしたね」


 東雲はにへらと笑った。


「どういう意味だ?」


「いえ、こちらの話で。さてさて次は雨炎火石処うえんかせきしょです。旅人を酒で酔わせて財を奪った者と、象に酒を飲ませて暴れさせて人殺した者が落ちる場所です」


「象!? いるのかそんなことしたやつ」


「現代では皆無です」


「だよな。って過去にいたことがびっくりだ」


「昔は炎石の雨が降り注いで亡者を撃ち殺してました。あとは溶けた銅と血が混ざった河が流れてましてね。そこに亡者たちを突き落として焼かれながら溺れてもらったり、あ、そうそう! 体全部から炎を出してる巨大象がいて踏み殺してましたよ」


「なにその象、超見たい」


「しかし今では………」


「あ、まって東雲。それ、今どうなってるのか楽しみにしたい」


「そうですか? がっかりしても知りませんよ?」


「もういろいろがっかりしてるから、楽しみ方を変えたいんだよ」


「そうでしたら」


 東雲が指を鳴らすと、一瞬にして視界が変わっていた。

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