第52話 リョウちゃん、上手いこと言えない。

 新川くんは地獄に落ちてからのことをリョウに話した。


 右も左もわからなかった新川くんに亡者としての心得を教えてくれたのは、さっきの三人だった。


 天国のお陰で地獄が快適に過ごせること。


 獄卒は亡者に対してなにもできないこと。


 ここでは死んでも死んでも生き返ること。


 亡者同士で争うと罪が増すこと。


 そんな基本を教えてくれたあと、なぜ地獄に落ちたのかの話になった。


 新川くんは自覚なく地獄に落ちた。しかしどうして地獄行きになったのかは閻魔大王に教えられた。理不尽だと思ったが、どう抗議してもその判決は覆らなかった。


 その話をしてからだ。あの三人の態度が変わってしまったのは。


 最初はちょっとした皮肉が会話の中に交じる程度だった。


 それがどんどん悪化していき、新川くんがなにをしても悪い方向にしか受け取らなくなっていた。


 三人から罵倒されるようになるまでそれほど時間はかかからなかった。


 頼るべき相手のない地獄で、最初に頼ったのがあの三人で、他の亡者たちは話もしてくれないし、関わりたくないのか遠巻きにするだけだ。


 逃げ場のない環境下で、精神を削るようなイジメは徐々に度合いを増し、終いがこのファラリスの雄牛だ。


 しかも彼らは直接手を出していない。自殺するように促されたのだ────死んでも生き返るのを体験してみろ、と。


「それで素直に死ぬバカがどこにいるんだ」


「もうね、どうしようもないんだよ! 一度死ねばもう飽きてくれるかと思ったんだよ!!」


「あんた、そんないじめられっ子体質じゃないだろ。なんでやり返さないんだ」


「三人相手に武器もないのにどうしろっていうわけ!? それに直接手を出したら刑期が増えるんだよ!!」


「直接じゃなきゃいいって法もないだろ。むしろ亡者相手になにかしたら罪が増えるって俺も言われたけど、いまんところ何もないぜ?」


「え」


「それに関しちゃ、あとでなんか来るかもしれねぇけど、それでも死ぬまで追い詰められたら関係ねぇよ。やり返せ」


「リョウちゃん………俺が喧嘩強いように見えるか!?」


「窮鼠猫を噛むって言うじゃないか。ネズミ殺して地獄に落ちたってんなら、それやってみろよ」


「いや、意味がわからないよリョウちゃん」


「うん、良い事言おうとして失敗したと思ってる」


 相手はドブネズミが転生した人間だから、どう転がしてもそのことわざはイマイチしっくりこないな、と、リョウも思っていたようだ。


「ふぅ、やっと前のリョウちゃんっぽくなった」


「そうでもねぇぜ」


 リョウの冷ややかな眼差しは変わらない。


 なによりも、されるがままになっている新川くんの、おどおどして目も合わせられなくなってしまった雰囲気にゲンナリしていた。


「店に立ってる時のあんたは、スタッフも客もちゃんと仕切ってたけどな────東雲!」


「はいはい?」


 リョウに呼ばれて突然スーツ姿の獄卒が現れたので新川くんはぎょっとした。まるで瞬間移動してきたかのように現れたからだ。


「亡者は武器とか持てないのか?」


「それはさすがに」


「新川くんはサバゲー好きだからM16とかあったら強いと思うんだが」


「どこの地獄に亡者にアサルトライフル持たせる獄卒がいますか」


 東雲は苦笑した。


「けど、もしかしたらたまたま落ちていた獄卒の武器を拾っちゃうこともあるかもしれませんねぇ」


 新川くんの足元には、いつの間にかコルトパイソン357マグナムが落ちていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます