第49話 リョウちゃん、二日酔いになる。

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           作者:注

 「今回呑みすぎてまとめきれず、文章が普段の倍です」

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 叫喚地獄の一つ、火末虫処かまつちゅうしょ


 水で薄めた酒を売って大儲けした者たちが落ちるところで、ここに落ちた亡者は、地・水・火・風の四大元素から来る四百四病の全てを味わう。


 しかも四百四病それぞれが地上の人間を死滅させる威力を持つ。


 また、罪人の身体からは無数の虫が湧き出し、自分の肉や骨を食い破って出てくる様を見なければならない。


「み、みず……」


 リョウは東雲に手を出した。


 東雲はミネラルウォーターのペットボトルを抱えている。


「え? みみず?」


「そんなクソくだらねぇギャグはいいから、水くれ、水!!」


 人生最大の二日酔いで苦しむ山内リョウ。


 もう二度と酒なんか飲んでやるものか! と思いながらこの火末虫処かまつちゅうしょの説明を聞き、ミネラルウォーターを飲む。


「で、今はどうなってんだここ」


「痛風地獄です。足が痛くなります」


「ある意味痛いな」


「あと尿管結石にもなります。なったことあります?」


「いや?」


「例えるなら、下痢の痛みですかね。もちろんトイレいっても横になっても永遠にスッキリできずに痛みでのたうち回るんです」


「うへ……って、それが四百四病の代わり?」


「ええ。尿酸値に気をつければなんということはない地獄になりました」


「まぁ、今までの地獄に比べたら圧倒的に痛いな。しょぼいけど」


「はい、では次に行きましょう。地獄巡りはまだ半分も来ていませんからね」










 熱鉄火杵処ねつてっかしょしょ


 鳥や獣に酒を与えて、酔わせた後に捕らえて殺した者が落ちる所。


 昔は獄卒が鉄の杵を振りながら追い回し、捕まると砂のごとく細かく砕かれる地獄で、肉体が再生すると今度は刀で少しずつ削られ、細かい肉片にされていた。


「まぁ、亡者を砂にするほど叩くとか、そこまでする獄卒の労力が半端ないのと、そもそも鳥や獣に酒を与えて酔わせた後に捕らえて殺す人なんか日本に何人もいないので、今ではこうなってます」


「なにこれいい匂い」


 あたりを見ると、亡者たちが様々な形状の箱を眺めている。


「燻製器です」


「?」


「ここでは衆合地獄に酒のツマミとして送っている燻製を作っています。あ、もちろん彼らも8時間労働の仕事としてやってます」


「もとの刑罰、影も形もない仕事だな」


「ほら、細かい肉片という共通点が」


「………自分のじゃないんだろ」


「畜産もちゃんと別のところでやってますので、そんな食人みたいな真似はしなくてもいいのです」


「ふ~ん。叫喚地獄の中じゃ一番マシなんじゃねぇか、ここ」


「与える罰としてはそうですが、ここの刑務についた一部の亡者にとってはマシじゃないようですねぇ………あれ見てください」


「作り物の牛かな?」


「ええ、真鍮で作った牛の像です。外から鍵をかけて下から火で炙ります」


「え? 鍵?」


「真鍮が黄金色になるまで中身を炙るんですよ。牛の頭部は筒と栓がいくつもつながっていまして、かつてはあの中に入れた亡者の叫び声が仕掛けを通して本物の牛の声のような音になって出ていたそうです。知りません? 古代ギリシアの拷問道具でファラリスの雄牛って言うんですけど」


「おい、ここ日本じゃなかったのかよ。なんで洋モノ取り入れてんのか?」


「各国の地獄が拷問器具を見せ合う地獄サミットで譲り受けたとか」


「地獄サミット………なにその聖飢なんたらのやってるライブみたいな名前」


「違いますよ、彼らのライブは黒ミサと呼ばれています。いいですよねぇ、ダイモン閣下。早稲田大卒で満100万と55歳とか、そのご年齢なのに全く損なわれない声量とか声の美しさ。最高じゃないですか」


「なんでそこまで知ってんだよ。ファンか!? ファンなのか!?」


「まぁいいじゃないですか。それよりあの雄牛、今は亡者たちの遊び道具です」


「………ははぁん。その大げさな仕掛けの牛の中で燻製作ってるってオチだろ」


 リョウがドヤ顔で「見切ったぜ」とか言ってる間に、亡者たちが黄金色にまで熱せられた雄牛に集まり、中から丸焦げになった人間の塊が引っ張り出された。


「うえ」


 二日酔いの日に見るものではない。


 だが、それを見た亡者たちは大笑いしている。


「なんだあいつら………」


 それなのに喜々として亡者殺し……それも死に至る拷問にかけて笑っている。


「彼らは罪のかさが増すことを恐れていない『やさぐれ亡者』です。8時間燻製を作り続ける生活に嫌気が差して、目障りな亡者をリンチしたり拷問にかけたりして、このあたりを仕切っている連中と言えばわかりやすいですかな? さすがに獄卒には手を出したりしませんが………彼らの鬱憤払いのために何度も何度も殺されている亡者がいるようですねぇ」


 引きずり出された肉の塊は、一陣の風と共に人間の姿に戻った。


「あ」


 恐怖に引きつり達から逃げようとしてまた捕まった細身の男は、リョウが働いていたバーの店長、新川くんだった。

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