第48話 リョウちゃん、吐く。

「はいイッキ!!」


 女獄卒がなみなみにバーボンが注がれたショットグラスを差し出す。


 リョウはそれを一気に流し込み、蒸せた。


 本来の地獄が待ち構えているかと思いきや、ここは普通に会員制クラブだった。


 だが、飲み方が地獄だ。本当に地獄だ。


 目の前にはショットグラスが6つ。右から1、2、3、4、5、6と番号が振ってある。


 灰皿の中でサイコロを振り、出た目の番号と同じショットグラスの中身を干さなければならない。


 干しても終わりではない。空のショットグラスを引き当てるまでサイコロを振り続け、また中身の入ったショットグラスを引いてしまったら飲まねばならない。ちなみにサイコロが灰皿から飛び出すと、場に残っている酒すべてを飲まなければならない仕様だ。


 空のショットグラスを引き当てたら、入れる中身をチョイスして次の人に交代できる。


 グラスに入れられるのはバーボン、テキーラ、コカ、シャンパン、リンゴジュースのどれか、だ。


 みんな最初はリンゴジュースを入れたり、なみなみに注いだりはしなかったが、自分が飲まされると「やり返してやる」となってどんどん悪化していく。


『こ、これがパリピの飲み方か!』


 もう何倍飲まされたのかわからない。


 何人かの女獄卒は完全にイッてしまって、ミニスカートなのに大股開きでソファで項垂うなだれている。


 なにがヤバイかと言うと、バーで飲み慣れている酒ならいいのだが、コカとシャンパンは鬼門だった。


 コカは薬草系リキュールで、本来はエナジードリンクと割れば美味しい代物だ。が、それをストレートでイッキさせられるのはツライなんてものではなかった。


 そしてシャンパン。とても美味い………美味いのだが、こういう場合、炭酸がきつい飲み物は胃の中からすべてを込み上げさせる恐ろしい兵器になる。


 すでにコカやシャンパンのボトルが10本は床に転がっている。


 そんな中でも阿傍羅刹あぼうらせつの岩本猫又士は平気な顔をしてタバコを吹かしている。


 リョウは気がついていないが、岩本猫又士は一度も酒の入ったショットグラスを引いていない。彼に順番が回ってくるまでに誰かが引き当ててしまい、高確率で中身がなくなっているからだ。


 その代わり、岩本猫又士の対角線上に座っているリョウの順番までには、酒が波々と注がれている。


「こういう個室のクラブには気をつけろ。地獄の半グレ共が金持ちの醜聞求めてあちこちにカメラ仕掛けてるからな。ここの股開いてる女どもにちょっとでも手を出してみろ、すぐに録画した映像見せつけられて『天国にチクられたくなかったら金を出せ』って脅されるぜ」


「俺はそんなことしねぇ」


「その手はなんだ?」


「はっ!」


 気がついたら、リョウの左手は横に座っている女獄卒の尻の下にあった。


「これはこの女が俺の手に上に座ったから?」


「疑問形で言うな。まぁいい。安心しろ、ここはMr・Jの店だ。お前に対して変なことにゃならねぇ」


「オーナーの店!?」


 まさかこんなところにも手を広げていたとは。そして岩本猫又士がオーナーと接点があったとは。


「で、このゲーム、いつ終わるんだ」


「あ? オレとオマエ、どっちが先に潰れるかに決まってんだろ」


 岩本猫又士はトマトジュース(ノンアンコール)を飲みながらニヤリと笑った。











 トイレでリョウが便座を抱えて「ボエエエエエエエ」とやっている最中、岩本猫又士は、いつの間にか現れていた東雲にバーボンを注いだグラスを手渡した。


「やぁ、どうもどうも。で………どうです、彼」


「どうもこうも、ちっともがねぇじゃんか」


「そうでもないんですよ、これが。亡者相手に結構くれていますよ」


「ほう?」


「まだまだ足りませんがね。彼にはもっと今の地獄の惨状を見ていただかないと。こんなヌルい酒地獄で吐いている場合じゃないって気がついてもらわないと」


「おお、怖い怖い。ま、俺は酒飲みながら見物させてもらうぜ。とやらを、な」

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