第46話 リョウちゃん、カラオケをする。

 叫喚地獄には亡者たちの泣き喚き、許しを請い哀願する声を聞き、獄卒はさらに責め苛む。特に、頭が金色で目から火を噴き、赤い服を着た巨大な獄卒が亡者を追い回して弓矢で射ったり、焼けた鉄の地面を走らさせたり、鉄の棒で打ち砕いたりしていた────。


 その金色で赤い服の巨大な獄卒は、カラオケ部屋で美女数人を両手と足の間に侍らかして待ち構えていた。


「や、どうもどうも。お久しぶりです」


 東雲はペコリと頭を下げた。


「ああ、山内さん。こちら阿傍羅刹あぼうらせつの岩本猫又士さんです」


「あ、え、ど、どうも」


「あんたが期待の新人か」


 煙草をくゆらせながら鋭い眼光で言う獄卒は、そんじょそこらの獄卒とは格が違う。


 身にまとうオーラがやばい。ちょっとでも機嫌を損ねたらソファ横に立てかけてある金棒で頭を粉砕されそうな、そんな気にさせられる無言の圧力だ。


 それに、その格好。


 金色というか金髪で巨漢の鬼は、真っ赤なダウンジャケットにワインレッドのジーンズ、そして赤いスポーツシューズ………服の色は赤しかない。


 その岩本猫又士が脇に抱えている美女たちも獄卒のようだが、岩本猫又士が巨大すぎて妖精さんフェアリーのように小さく見えてしまう。


「まぁ座れよ」


 岩本猫又士に促され、ソファに腰掛ける。


 東雲は座らない。


「え、なんで座らないんだよ」


「私、ちょっと厠に」


「まて。ダメだ。一緒にいろよ!」


「それでは岩本猫又士さん。あとはよろしくお願いいたします」


「しののめぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 リョウの叫びは虚しくエコーし、カラオケ部屋から東雲は消えた。


「で、さぁ」


 岩本猫又士がずいと前に身を起こした。


 それだけで瘴気を含んだ空気が揺れて、女達があふんと艶めいた声を出す。


『なんなんだこいつ。羅王か!? 世紀末覇者なのか!?』


「山内君だったっけ?」


「は、はい」


「まずワンドリンクなにがいい?」


「え、あ、えーと、じ、じゃあ、ビールを」


「おう、女、注文しろ」


「はいよろこんでー!」


 女としか呼ばれなかった女獄卒はタッチパネルでビールを注文した。


「それで山内君」


「は、はい」


「なに歌う?」


 岩本猫又士はマイクをずいと突き出した。


「え、あ、えーと、じ、じゃあ、ヘルタースケル………」


「はぁ!? ここは日本の地獄だぞ? 日本の歌にしろや」


「は、はい!? じ、じゃあ、ダイアモンド尾崎の『15の夜にバラとワインを卒業』で………」


「おう、女、入力しろ」


「はいよろこんでー!」


 女としか呼ばれなかった女獄卒はタッチパネルでリョウの歌を入力した。


「それじゃあ────」


 岩本猫又士が立ち上がる。


 天井近くまであるその巨漢は、両手にタンバリンを装備している。


「100点とるまで、かえれましぇんゲーム。いえええええええええええええええ!!」


「いええええええええええええ!!」


「」


 リョウは言葉を失い唖然となった。

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