叫喚地獄変

第43話 リョウちゃん、叫喚地獄に行く。

「次は八大地獄の一つ、叫喚きょうかん地獄です。殺生、盗み、邪淫、飲酒という罪を犯した者が落ちます。あ、飲酒といっても酒を飲んだり売買しただけではここには来ません。ここに来るのは酒に毒を入れて人を殺しをしたり、他人に酒を飲ませて悪事を働くように仕向けたりした者ですね」


 東雲の説明を聞きながら、リョウは「地獄♡観光♡案内」と丸っこい文字で書かれた看板を眺めていた。


 ここは衆合地獄の下に位置し、衆合地獄の10倍責め苦を受ける地獄で、もともとは熱湯の大釜や猛火の鉄室に入れられていたそうだ。


 亡者たちの泣き喚き、許しを請い哀願する声を聞き、獄卒はさらに責め苛む。


 特に、頭が金色で目から火を噴き、赤い服を着た巨大な獄卒が亡者を追い回して弓矢で射ったり、焼けた鉄の地面を走らさせたり、鉄の棒で打ち砕いたりしていたそうだ。


「ここ、芸人でもいたのか」


 リョウは高学歴で赤いスーツと金髪が特徴的な若手芸人を思い出した。


 案内の看板にはまだなにか書いてある。


 この地獄では人間界の時間で852兆6400億年経過したら成仏できるとか書いてあったが、その数字のバカみたいな桁数に「どうでもいいわ」としか思わなかった。


「ここはちゃんと十六小地獄揃ってますから、心ゆくまでお楽しみください」


「どんな地獄が16もあるのか先に聞いといていいか? 一箇所ずつ回ってもどうせ【後半は設定がかぶってる】とか【なんか刑罰が似たような感じ】なんだろ?」


「まぁ、そうなんですよね」


 にへらと笑いながら東雲は説明を始めた。


 まずは大吼処だいくしょ


 心身を清める斎戒を行っている者に酒を与えたら落ちる地獄だ。


「その程度で落ちるのかよ。容赦ねぇな」


 斎戒さいかいとは神仏に祈ったり神聖な仕事に従ったりするとき、飲食や行動を慎んで心身を清めること、つまり断食などだ。

  

 昔は溶けた白蝋を無理矢理飲ませられたそうだ。


「ほんと蝋燭好きだよな、地獄って」


「ええ。まぁ、今では例の天国命令で………」


「酒蔵にでもなったか?」


「いえ、世代の違う上司に安い居酒屋に連れて行かれて、朝まで会社の愚痴とジェネレーションギャップを聞かされながら飲む地獄になっています」


「地味にきついな。さすがレベル4の地獄だ」


 皮肉いっぱいに言ったが、東雲には通じなかった。


「けど飲み代は上司が払います。それが大人の矜持だとかなんとかで」


「あとで経費精算するんだろ」


「おお、なるほど」


「東雲、あんた、会社勤めしたことないだろ?」


「そういう山内さんは?」


「俺はずっとバーテンだが、水商売でも正社員だ。会社員と言っても問題ないだろ」


「ふむふむ、では山内さんの上司は?」


「オーナーってことになるな」


「あちらでお待ちです」


「は!?」


 リョウは驚いて振り返った。


 そこには元ファションモデルにして勤めていたバーのオーナー、Mr・Jが腕組みして待っていた。

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