第39話 リョウちゃん、芸能人に会う。

    * * * * *

 衆合地獄編がやたら長くないかって?

    わかってるんだろ。

     好きだからさ!

    * * * * *



「なんだいまの本能剥き出しな電光掲示板は」


「さて」


 東雲に促され行った先は、まさかの衆合地獄「風呂屋」だ。


 風呂屋と言えば、風俗産業の最終到達点にして至高至極の遊び場。


 いわゆる「姫は風呂場で客の体を洗ってあげるだけだけど、姫と客が恋に落ちて最後の一線を越えちゃったとしても仕方ないよねー」という店だ。


 まさかここに【片原せりの】が!?


 リョウは生唾を飲んだ。


 清純派アイドルとして13歳から芸能界に入り、17歳の時からアイドルから脱皮して演技派女優になった。


 23歳の頃までしか知らないが、幼さも残りながら芯の強さが瞳に宿る、とても美しい顔立ちの女性だった。


 猫の目のように美しい瞳と眼差し。


 小さな顔………破顔した時は、その笑みだけですべての戦争が終わるんじゃないかと思えるほど可愛らしい。


 少し厚めの唇と、清純派とは思えないほど形が良くて大きな乳房。細い腰と足首はなんど見ても垂涎だった。


 そんなあこがれの芸能人が風呂屋に!?


「俺、あの子に会えるのなら死んでもいい」


「死んでますってば」


 東雲は苦笑しつつリョウを風呂屋に案内した。


 暖簾をくぐると、ズラッと美女が並んでいる。


 獄卒ではない。全員が亡者だ。


「ここにいるは、こういう仕事が好きなんだとかで。強要はしていません。天に誓って」


「お、おう」


 話半分で【片原せりの】の姿を探すがいない。


 今はまさに接客中なんだろうかと少し残念に思っていると、東雲がツンツンとリョウの肩を突付いた。


『どうです、あこがれの有名人と面と向かった気分というのは』


『は? どこにいるんだよ』


 東雲は店の壁………床の間とも言うべき場所を指差した。


 戦国時代の武者鎧が椅子に腰掛けたように飾ってある


「は?」


「片原さんはこの店のボディガードをされています」


「そ、そういえば剣道の有段者とかいうプロフィールをテレピで見たことがあるわ」


 姫ではなくボディガードとは……ホッとした気分のほうが強い。


 なにがどうなってしまったらあの清楚な女優が風呂屋で働くことになってしまうのかと、道中気になって仕方ないところだった。


 片原せりのは、そんな無骨なタイプには見えなかったが、やはりモニター越しで役者として別人物を演じているのばかり見ているから、実態がわからないものなのだろう。


「片原さーん、どうもー」


 東雲が軽い雰囲気で挨拶すると、鎧武者は立ち上がって一礼した。


「こちら、山内さん。亡者なんですがあなたの大ファンと言うことでして、お連れしました」


「東雲様が亡者を連れて、わざわざ衆合地獄に!?」


 驚いた声だったが、小鳥が鳴くかのような美しさに聞こえ、リョウは涙腺が崩壊しかけた。


 あの、憧れの片原せりのが目の前に………いる………いるんだけど、鎧甲冑が邪魔! 顔も翁のようなお面かぶってて見えない!


「で、あなたは風呂遊びがしたいの?」


 仮面の下から、ひんやりとするほど冷たい眼差しを受け、リョウはブルブルと顔を横に振った。


「品行方正な俺……いや、僕がそんなことするわけないじゃないですか。っていうかファンです」


「東雲さん、この亡者、私の周りにいた糞虫みたいなストーカー共と同じ匂いを感じるんですけど」


 片原せりのは腰に下げた日本刀に手をかけて鯉口を切った。リョウとしてはその口振りの悪さに少し引き気味だ。


「いや、僕は純粋なファンですからわきまえてますよ。一線を超えて近寄りたいとか思いませんから」


「はん。あいつらと同じようなことを言うのね」


「あいつら?」


「ふん。こんな所まで来て………ホントは私とセックスしたいんじゃなくて?」


「あの、失礼を承知で言うと、そういう言葉をあなたから聞きたくないですね。ファンとしては、あなたが演じている姿が好きなのです。バラエティで見るあなたの笑顔が好きなんです。モニター越しで十分。触れ合いたくないのかと言われたら嘘になるでしょうけど、そんなことをして今まで抱いていた虚像が壊れてしまう方がもっと怖い────今、まさに崩れそうですけど」


「私、あなたのような偽善者、大嫌いなの」


【片原せりの】は日本刀をすらりと抜刀した。

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