第38話 リョウちゃん、おっぱぶに……?

 蘇り、這々の体で逃げ出す松井田を見送り、旨い酒を喉に流し込むとリョウの周りには女キャストが全員ひしめいていた。


「こんな嬉しかったの初めて!」

「おにーさん最高!」

「超かっこいい! 亡者なんて勿体無いわ」

「今夜ずっとお付き合いします!」


 豊満な女獄卒演じるキャストが、薄着のドレス姿でリョウに肉薄する。下着をつけていない胸は当ててきているし、リョウの手を取って自分の太ももの上に置こうとする者もいる。


「モンテクリストのNO4です」


 松井田に蹴られていた黒服の獄卒が葉巻を持ってくる。


「お! それ、俺の好きなやつだ。って、頼んでないけど?」


「サービスです」


 黒服は満面の笑みを浮かべた。


「おやおや。なんですかこの鬼モテ状態は」


 東雲がひょいと現れる。


「なにかあったんですか?」


 店の女の子たちに問いかけるが、誰もが「なにもー?」とシラを切る。


「なにも?」


「ええ、なにも」


 黒服も女の子たちに同調した。


「お楽しみいただけているようですが、そろそろ次の店に行かないと」


「は? マジで? 全然ゆっくりしてないんだけど」


 リョウが残念そうに言うと、女の子たちも「そうだそうだ!」と囃し立てる。


「なにか?」


 大声を出したわけでもないのに淡々とした東雲の声が低く店内に響く。


 女の子たちの顔から血の気が引く。


 ────私たちは何を調子に乗っていたのだろう。


 ────なぜ私たちはを相手にこんな軽口を聞いてしまったのだろう。


 ある女の子は恐怖のあまりに歯が合わなくなってカチカチと音を立てていたし、大半はヒールを履いた足が震えている。


「わかったよ。行くからそうキレるなよ、東雲」


「キレてないですよ」


 東雲はと笑った。











「今のヘヴンって店いいな。また来たい」


「ええ、ぜひぜひ。ちなみに次の店もいいですよ」


「ゆっくり酒飲みたいんだけど」


 さっきの店では愛用の葉巻も満足に吸えなかったが「地獄は歩行禁煙とかありませんからどうぞ吸いながらでも」と言われて悠々と歩き葉巻をしながら衆合地獄の歓楽街を歩いている。気分は腕に銃を仕込んだニヒルでダンディな宇宙海賊だ。


「残念ですが次はそれほどゆっくりできません」


「えー。もっとゆっくり落ち着いて酒を楽しもうや」


「次はおっぱいパブです」


「!」


 リョウは急に背筋を伸ばした。


「古今の綺麗どころが集まった店でして、常時揉み放題摘みたい放題、オプションで舐め放題です。ハッスルタイムではあなたの上にパンティー姿で馬乗りになって惜しげもなくダンスしてエボリューションする感じの店です。胸のサイズはAからJまで多種多様と聞いています」


「お、おお………」


「ちなみにその店にいるのは獄卒と言えば獄卒なのですが、バカ正直に言うと全員妖狐や化狸です。お望みならオプションで『好きな芸能人の姿に化けてもらえる』というコースもありますよ?」


「え、じ、じゃあ俺の好きな女優の【片原せりの】に!」


「出来ますよ。と言いますか、その方なら衆合地獄で働いていますよ」


「は? 馬鹿言うな。俺より全然若いし、まだ死んでないだろ」


「ははは。ここは地獄ですよ。時間時空が現世とは違うのです。片原せりのさんなら20XX年に路上で刺殺されましてねぇ」


「お、俺が死んだ15年後だと………!?」


「はい。繰り返しになりますが、時間の流れが違うのです。お会いになられますか? 今すぐ行けば当人に会えると思いますが」


「おう! おっぱぶも捨てがたいけど、【片原せりの】に会いたい!」

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