第37話 リョウちゃん、鬼娘を援護する。



 女獄卒のキャストはアイスが満杯の小さなバケツをリョウに渡そうと持ち上げた。


「あ、それ投げて寄越してください。近寄るとこの猛獣が暴れるんで」


「は、はい。氷こぼれちゃいますが………」


「いいですよ。問題ないです。どうぞどうぞ」


 ぽい。


 それは力なく松井田の背中に当たった。


「いてぇなクソアマああああああああああ!!」


「あ? そんなに痛くないだろうが。あ、もっかいおねがいしまーす」


「は、はい」


 ぽい。


 今度はちゃんとリョウの方に届きそうな放物線を描いてアイスペールが飛ぶ。


 だが、それはまた松井田に当たった。


 よくよく見ると、リョウが足で松井田の体を動かして当たるように仕向けている。


 女獄卒達はにやにやし始めた。


「て、てめぇら獄卒が亡者にこんなことしていいのかよ!!」


「何言ってんだお前。あの子達はアイスペールを渡そうとしてくれてるだけだぞ」


 リョウはシラッと言い切り「もっと思い切り投げないと届かないよー」と言った。


「頑張ります!」


「思い切り頼むわ。死ぬほど思い切りな」


 リョウがウインクすると、獄卒の女キャスト達は全員がフンス!!と鼻息を荒くした。


 そして一人がドレスの裾を捲り上げ、テーブルの上に乗る。さっき股間を触られていた娘だ。


 黒服のボーイが次々にアイスの入ったミニバケツを持ってくる。さっき松井田に蹴り倒された者だ。


 そしてリョウは地獄に堕ちて初めて獄卒の力を見ることが出来た。


 女の子の繊手から投げられたアイスペールは「パァン」と、音の壁を突き破る衝撃波を放ちながら松井田の背中に直撃し、爆散した。


 中身のアイスは皮膚に食い込み、豚を殴ってもこんな声はしないというほどの悲鳴を上げる。


 皮膚はめくれ、筋肉が剥き出しになったところに、またアイスペールが投げつけられる。


 松井田はリョウの足を頭からどかそうと必死にもがく。


「お前、さっき俺の肩踏んだよな? なんで踏んだの?」


 リョウが優しくく問いかけても松井田からの返答はない。背中にぶつけられたアイスペールと突き刺さった氷による痛みで声が出せないほど震えているのだ。


 リョウの心の中に様々な感情が流れ込んでくる。


 芸能界にあこがれて上京してきた容姿が良いだけの田舎娘は、松井田達に騙され、客を取らされ、堕ちるところまで貶され、男たちに蹂躙されボロボロになった身体を抱きしめながら安アパートの部屋の隅で蹲っている。


 松井田たちが仕掛けたオレオレ詐欺で老後の蓄えを奪われた老夫婦は、そっと手をつなぎ崖の縁から飛び降りる前に「愛していたよ」と言葉を交わす。


 松井田達に生活保護費用を奪い取られて、明日をも知れぬ状況になりながらも迷子の子供を交番に案内していた浮浪者は、その子の親から「うちの子をどこに連れて行くつもりだったんですか!!」と罵倒され、この世のすべてが嫌になった。


 山中に産廃を捨てながら、松井田の指示で敵対勢力幹部をそのゴミの山の中に縛り付けた運搬屋は、いつか自分もこんな目に遭うかもしれないと思うと身震いするしかなかった。


 そんな松井田に対する負の感情がリョウに入り込み、耐え難い怒りが満ちる。


「糞外道が。本当の地獄に落ちろや」


 リョウの蹴りで松井田の首はボキッという心地よい音と共に垂れ下がった。

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