第28話 リョウちゃん、無彼岸受苦処に行く。

「で、俺が堕ちそうなもう一つがここか」


「はい。無彼岸受苦処むひがんじゅくしょです。妻以外の女性と性行為を行ったら落ちる刑場で、火責め、刀責め、熱灰責め、病苦責めなどなど、とにかく次から次に苦しむ刑場でした」


「そんなのほぼすべての男が堕ちるだろうよ!」


「そうなんですよ。しかも天国で『不倫は文化として認めるべきだ』という論争が起きましてねぇ」


「………天国って暇なのか?」


「天国も地獄も日本人用の世界ですから人口が減少するのは困るんですよ。特に今の日本は子育て生活環境が整いすぎて少子化傾向にあるので。なので天国としましては人の作った法律とかどうでもいいから『生めよ増やせよ子作りバンバン!』というキャッチコピーで人口増加を推奨していまして」


「頭悪そうなキャッチコピーだな!」


「ええ、もう不倫だろうが強姦だろうが、とにかく子供が増えればいいとでも考えているのでしょう。された側のことなど、まったく配慮しないやり方です」


 東雲は妻(にして妹、前職・尼僧)と、娘を気くるいのカスのような人間に強姦され、殺された経緯があるので、そういう天国の方針が許せないのだろう。


「ちなみに生めよ増やせよってコピーですけど、大日本帝国が作ったキャッチコピーの『産めよ、殖やせよ』から流用しているそうです」


「は? 旧約聖書の創世記じゃねぇの?」


「大学卒のインテリっぷりをここで発揮ですか山内さん」


「う、うるせぇよ」


「更に言うと、ここは日本の地獄ですよ? 聖書関係は別世界の地獄です」


「国によって地獄も分かれてるのかよ………てか、大日本帝国とかいつの話だ?」


「ああ『産めよ、殖やせよ』ですか? それは昭和14年に発表された『結婚十訓』の一つです。早い話、戦争で人がめちゃくちゃ死んでいくから子供作って兵隊にしろって話です」


「ひでぇ時代があったもんだ。てかさ、子供作っても兵隊にするには何年かかるって話だよ」


 まったくです、と東雲は頷いた。


 ちなみに結婚十訓とは


 一生の伴侶に信頼できる人を選べ

 心身ともに健康な人を選べ

 悪い遺伝のない人を選べ

 盲目的な結婚を避けよ

 近親結婚は避けよ

 晩婚を避けよ

 迷信や因襲にとらわれるな

 父母長上の指導を受けて熟慮断行せよ

 式は質素に届けは当日に

 産めよ殖やせよ国のため


 というものらしい。


「当時の優生思想には薄ら寒いものを感じますねぇ。それでいて世間的には女性と公然の場で喋っているだけでも「なにを乳繰り合っておるか! 日本男児として恥を知れ!」と怒られていたのですから矛盾もいい所です」


「なぁ、東雲」


「はい?」


「今の今までお前は俺と同じ時代から獄卒になったとばかり思い込んでいたけど、実はもっと古い時代の人間なんじゃないのか?」


「さて。どうでしょうね。あ、そうそう。この無彼岸受苦処、妻以外の女性と………という縛りだと、山内さんがご指摘されたとおり、結婚前に性交渉した人すべてが堕ちるわけですよ。そんなのキャパ的に無理! ということになり『結婚して妻もいるのに他所の女とセックスした男のための刑場』となってます。ちなみに不倫した女性用の刑場はありません」


「は?」


「男だけです」


「差別だ!」


「どうでしょう。男はここで反省したら転生できますが、女は反省する機会すら与えてもらえないのですから。まぁどのみち差別ですね」


「古い日本の因習怖いわ。で、今ここはどんな刑罰になってんだよ」


「そんなにセックスしたいのなら、という地獄です」


「は?」


夢魔サキュバス雲霞うんかごとく湧き溢れていまして、男がいると精液を求めて群がってきます。もうSODソフト・オブ・出窓企画モノAVもびっくりの乱痴気騒ぎが至る所で………もちろん枯れ果ててもすぐに元気になるので腹上死するまで快楽の坩堝るつぼです。ま、腹上死したところですぐに蘇るのですけどね。ははっ」


「ちょっとまて。サキュバスって西洋の魔物じゃねぇのかよ」


「時給1200円で派遣してもらっています」


「派遣て。日本にも、ほら、なんだっけ。山姫だか山女とかいう、男とセックスして枯れ果てたら食っちゃう的な妖怪がいるだろうが」


「詳しいですねぇ。しかし時代的に古臭い顔した日本の妖怪女より、いつの時代の顔つきでもイケる洋モノの方が人気でして」


「おーいえす、おーいえす、かみん、かみん、ってすげぇうるせぇな………あれ激萎えだろ」


「サキュバスさんたちも心得たもので、妖術でハリウッド女優とかに化けたりしてるんですよ。憧れのあの美女がおーいえす、おーいえす言ってると思えば………」


「ちょっと行ってくる」


「はい、時間切れです。次行きますよ」


「鬼か! お前、鬼か!」


「ええ、残念ながら鬼なんですよ」


 東雲は指をパチンと弾いた。

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