第26話 リョウちゃん、涙火出処に行く。

 涙火出処るいかしゅっしょ


「禁を犯した尼僧と性行為を行った者が堕ちます」


 東雲は少しネクタイを緩めながら言った。


「誰が禁を犯した尼僧なのかなんて、わかると思いますか? たとえば山内さんが好きな上野の風俗店でついた姫が元尼僧だったとか、わからないでしょう?」


「わかんないけど、おいまてやめろ。いちいち俺の私生活を例に上げるな」


「まぁまぁ。ちなみにこの地獄は涙火出処るいかしゅっしょの名の通り、亡者が流した涙が炎となって当人を焼きます。獄卒は毒樹のトゲを目に刺し、鉄のはさみで肛門を裂き、そこに溶けた白蝋を流し込む役目だったそうです」


「とりあえずケツになにか流し込むのな………」


「ちなみに私の妻であり妹でもある綾子は元尼僧でした」


「とんでもねぇな!! なんかもういろいろととんでもねぇな!! 業が深すぎて笑えねぇよ東雲家!!」


「そもそも、そういう罪状を作る地獄がおかしいのです。いまどき尼僧と………なんてどんだけの数いると思いますか? それに禁を犯した尼僧と者が堕ちるといいましたよね?」


「ん? ああ」


「尼僧はどこに行くんでしょうね」


「えっ!? ここじゃないの?」


「ここは尼僧と者である男の方しかいません」


「マジか」


「しかもここの今の刑罰って白蝋作りですよ。亡者たちがなんか職人気質になって蝋燭作ってます」


「ま、まぁ、遊んでるよりはマシか」


「ここは工場とか会社ではないので、裁量労働制で独立採算も認められています。地獄の蝋燭はほとんどここで作られていましてね。有名なのは鬼六印の蝋燭ですかね」


「おにろく?」


「読み方はきろく、でもいいらしいです。生前は有名な作家さんだったそうですSM小説のイメージが強いので『ハードポルノ作家』とも言われていましたね。今でもご本人は『自分はソフトでハードじゃない』と言われていますが」


「へぇ。現世の有名人はここでも有名人なんだな」


「あれ? よく見ていなかったんですね?」


「は?」


「たとえば人の子供に性的虐待を行った亡者が居る罪悪見処あくけんしょには有名な歌手がいましたよ? 例えば…………」


「おいやめろ、名前は出すなよ。絶対出すなよ」


「はいはい。それに男同士で性行為をした亡者が堕ちる多苦悩処たくのうしょなんて、芸能人の坩堝ですよ。そういう人たちの曲とか歌、私はけっこう好きなんで、性癖と才能は関係ないと思うんですがね」


「………たとえば誰がいたんだ」


 東雲はリョウに耳打ちした。


「マジか! マジかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 がっくりと膝をついて愕然とするリョウの絶叫が響き渡る。


「それで言えばこの地獄にも有名人の尼僧と姦淫した罪で堕ちている亡者が」


「ちょっとまて。俺が知る有名人の尼僧ってそう多くないから、もういい。それ以上いうな」


「例えば、じゃ────」


 リョウは東雲の口を塞いで「次に行くぞオラァ!!」と怒鳴り声を上げてごまかした。

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