第25話 リョウちゃん、何何奚処に行く。

「地獄と天国は表裏一体です。閻魔大王も地蔵菩薩の顔を持ち、獄卒たちも天の御使みつかいとしての側面を持っているです」


「あんたが天使?」


「天使と言われると、日本人的にはですが、まぁ、そんな一面もあるんですよ」


「まぁ、知った所でなんだって話だけどな」


「そうでしょう。さ、次に行きましょうか」


「そろそろ地獄めぐり飽きてきた」


「そう言わず。次は何何奚処かかけいしょです」


「かかけいしょ?」


「漢字では『なになにけいの処』ですね」


「奚ってなんだ?」


「奚というのは10世紀頃までモンゴル高原あたりに存在していた遊牧民族のことです。地獄のシステムは中国が元でしてねぇ」


「なんで民族名が地獄についてるんだ? どういうやつが堕ちるとこなんだ?」


「兄弟姉妹を相手に性行為を行ったら堕ちます」


「………え、じゃあその民族って」


「歴史というのは支配者の都合によっていかようにでも書き換えられるものですから。昔の中国でその方々を打ち負かした方が『近親相姦する民族』とさげすんで使っていたのかもしれませんね。もちろん歴史的には漢族と同化していって民族的活動がなくなっただけなんで、事実無根でしょう」


「ひでぇな。何何ってのもよくわかんないし。で、どんな罰が?」


「ひとまず燃える炎に焼かれてもらって、鉄の烏の大群に食い尽くされるんです」


「鉄の動物好きだな。てか地獄のシステム考えたやつ、飽きて適当に同じの繰り返してるだけだろ?」


「ははは。ちなみに文献によると、この地獄では亡者たちの苦痛の叫び声が5000由旬ゆじゅんに渡って響いていたそうです。


「ゆじゅん?」


「古代インドの長さの単位です」


「中国とかインドとかいろいろな文化が混じって忙しいな!」


「ちなみに1由旬がどれくらいの長さなのか定義がしっかりしていないんです。7キロとか約15キロとか、人の背丈の8000倍とか、牛の鳴き声が聞こえる距離の8倍とか。約15キロの定義だと7万5000キロメートル先に届くという」


「………すげぇ声なのはわかる」


「ちなみに赤道の円周が約4万キロメートルなので地球一周して余りある範囲にまで声が届きますね。もはや神の声です。音波兵器です。直近にいる人達は鼓膜が破れるどころか音の壁に吹き飛ばされてしまうレベルですね」


「まぁ大袈裟な伝承なんだろ?」


「ははは。地獄は地球より広いですから大袈裟ではないんですよ、これが」


「マジか」


「叫び声を放つ当人も無事ではすまないでしょうけどね。ちなみに、ここに落ちる亡者は痛みや喜びの感受性が無茶苦茶なので、苦しんでいる声がなにかすごく喜んでいるように聞こえるらしく、ここに行きたいと願ってしまうそうですよ?」


「てか近親相姦でそんなに激しく責められるのか。昔はよくあることだったんじゃないのか?」


「しかし仏の教えでは禁忌なんですよ」


「まぁ、たしかに兄妹でやろうとか思えないわ。妹の顔とか見るとおふくろの顔とか自分の顔を思い出して萎えるわ」


「生き別れで離ればなれになっていた兄妹が、知らずに恋に落ち、ことに至るという事例もありましてね」


「………そんな昼のメロドラマみたいなことが?」


「結婚する時に判明したんですが私と妻は血の繋がった兄妹でした」


「は!?」


「ですから婚姻できず、事実婚のような状態だったんです。殺されたのは家族と言いましたが、まさに家族なんですよ」


「業が深すぎだろ!!」


 リョウの絶叫は何由旬か先まで響いたかも知れない。


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