第24話 リョウちゃん、忍苦処に行く。

 忍苦処にんくしょ


 戦争など他人の妻を寝取ったり、それを他人に与えたものが落ちる場所。


 つまり、戦時下の民間人相手にやらかした兵士が堕ちているべき地獄だ。


「壮観だな」


 木から逆さ吊りにされた武士風のちょんまげざんばら髪の男たちや、日本兵の格好をした数人が下から炎で燻されている。


「あれ、息をすると肺まで燃えるんですよね」


 東雲は「壁絵」を見ながらうんうんと頷いていた。


 そう。


「この刑場は昔こうでした」という壁絵があるだけで実際にはなんの刑罰も行われていないのだ。


「なんで?」


「なんでと申されましてね。戦争という異常な状態で、上官からも命じられたりするわけですし、そもそも生死を問われる状況下では性欲が増すというデータもあり、天国からは罪状が厳しすぎるというクレームが………」


「なぁ。もしも日本にどこかの国が攻めてきて、自分の家族や恋人を他国の兵士が犯してしていたらどうする? 俺だったら絶対殺すけど」


「どうでしょうかねぇ」


「家族殺されて心真っ黒なあんたが、そこでとぼけるのかよ」


「個人の感情で動いていては獄卒失格ですから」


 にへら。


 その笑いの奥で、東雲が全く笑っていないのはリョウにもわかる。


「じゃ、ここにはなんにもねぇわけ?」


「アスレチックジムがありまして、ぶら下がって腹筋していたりします」


「次いこ」


「ええ。次は朱誅処しゅちゅうしょです。問われる前に先に言いますが、そこは羊やロバを相手に性行為を行った人が………」


「さっき馬と牛でそれあったろ! 同じ獣姦じゃないのかよ!」


「ふふ。違うんです。仏を敬わなかった者が堕ちるんです」


「たまぁに外国のニュースで聞くけど日本でも羊とかロバ相手にあるのか、それ」


「受刑者3名ってとこですね」


「いるんかい」


「その刑場では鉄の蟻の大群に内臓まで喰われるという責め苦だったんですが、今は………」


「今は?」


「亡者のみなさんが地獄のあちこちで捕まえてきた妖虫を戦わせて遊ぶ『蟲王ムシカイザー選手権』の会場になってますね」


「………」


「妖虫も獄卒として亡者をいたぶるのが本来の役目なんですが、手出しできなくなったので大人しく飼われているんです。あ、普段はこういうボールみたいなものに入れられて………」


「やめろ! 見せるな! 出すな! それは最強法務部が出てくる。やめろマジで! モザイクかけとけ!!」


「ふふふ。地獄に人間界の著作権とか法は関係ありませんからね。ジャスラなんとかの版権ビジネスでもNなんとかの受信料強制徴収でもかかってこいって話ですよ」


「………それなのに天国には逆らえないのか」


「そうなんですよねぇ。別に地獄が天国の下部組織というわけでもないし、ぶっちゃけ六道の別区画だから内政干渉も甚だしいんですが、天国の方々は六道の頂点が天国なんだから………という選民意識がありましてね」


「他所の国の教科書に文句言う的な」


「そうですね」


「無視すりゃいいじゃないか」


「そうも言えないんですよ。天国には天罰という実力行使ができますし、地獄に救いの手を差し伸べたりする内政干渉は大昔から認められていましたから。ほら、蜘蛛の糸とかって話があるでしょ。地蔵菩薩が子供を救ったりもしますし」


「ふむ………」


「ま、その地蔵菩薩って実は閻魔大王なんですけどね」


「はぁ!?」

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