第22話 リョウちゃん、責める。

「ひぎぃぃぃぃぃ!!」


 後田実乗みのるは両手足をバタつかせ、テーブル上のグラスや皿を派手にぶち撒けたが、リョウは全く力を緩めなかった。


「そのあと奥さんはどうした」


「ひぎゃああああ!! 熱い! 熱いぃぃぃぃぃ」


「奥さんはどうしたって聞いてんだ」


 リョウが力を入れると網が歪み、その下にある煌々と光る炭が後田の目の前にあった。


 まつげが燃えて縮れていくのがわかるが、抵抗する力が出ない。


「あ、あの女は気が狂ったから! 包丁で刺した!!」

『刺しながら犯してやった』


「娘さんは何歳くらいだったんだ」


「し、小学生だ!! ランドセルを────」


「こんなクソ野郎が同じ日本人で同じ男で同じ人間だと思うと腸煮えくり返るな」


 リョウは容赦なく燃える炭に後田の顔面を押し付けた。


「ぎゃあああああああああああああああ!!!」


 皮膚がただれ、炭が容赦なく眼球に突き刺さる。


 それでもリョウは力を緩めなかった。


 別にそんな怪力があるキャラではないが、さんざん酔っ払った客は力の入りどころがおかしくなるのは知っている。


「ぐ、ぐえあ…………」


 吐瀉物が炭にかかり、異様な悪臭が立ち込めたところで他の亡者たちがざわめき出した。


「おい、あれいいのか」

「あいつは無銭飲食の常習犯だろ?」

「ああ、あいつ前々からむかついてたんだ」

「いい気味だぜ」

「あの若いのがやってなかったらいつか俺がやってただろうな」

「けど亡者が亡者を殺したら罪の上塗りになるんじゃないのか?」


 少し離れたところで見ていた鬼女が満面の笑みを浮かべて親指を下に向けている。


 リョウは顔が焼き爛れた初老の男を引き上げると、良心の呵責一切なくテキーラを注いでいたショットグラスを口にの中に突っ込んだ。


「あ、あが………」


「これは殺された奥さんの分」


 頭を持ち、思い切りテーブルの角に顔面をぶつけると口の中にあったグラスが割れて涎と共に血がどばどば落ちる。


「これは娘さんの分」


 何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、テーブルの過度に顔面を叩きつけると後田の顔面は腫れ上がり、頬骨が折れて目の位置もずれていた。


「残されて、地獄に堕ちてまでして、てめぇに復讐したかった旦那の分」


 トングで炭を掴むと後田の口に放り込む。


 どんだけグロッキーになっていても体は熱さに反応して跳ねる。だが、それを押さえつけてリョウは入れられるだけ炭を口に中に詰めた。


「最後にお前にカモられそうになった俺の分な」


 一滴も飲まずにおいてあったアルコール度数最強のウォッカをぶち撒けて余った炭を近づけたら全身が火達磨になった。


 実はこうしながらもリョウの手は震えていた。


 現実でこんなことはしたことがないし、そんなことをする勇気も度胸もない。


 なぜ当事者意識でこんなに怒りに満ちているのか、自分でもわからない。


 だが、こいつだけは許せないと思った。


 ぴくりとも動かなくなった後田に対する罪悪感は、ない。


 なぜなら頬を撫でるように風が通り過ぎていったら、地面に横たわっていた後田は元の姿に戻っていたからだ。


 ここは地獄。死んでも死んでも蘇り、同じ責め苦を味わう場所だ。


 決して焼肉を食う場所じゃない。


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