第20話 リョウちゃん、団処に行く。

 元人間の獄卒で山内リョウにとっては地獄の案内人である東雲。


 その東雲の家族を殺し地獄に落ちてきた亡者、後田実乗みのる


 獄卒はさまざまな規制により亡者に手が出せない。


 亡者同士ならなにをしてもいい。


 但し、罪が上積みされていく(かもしれない)。


 リョウは見透かしの珠を手に、後田に近寄った。


「あ?」


 若造が何の用だ、と言わんばかりにメンチ切ってくる。


 いい年した………もう老体と言ってもいいような年齢でよくもまぁこんなに落ち着きが無いものだ、とリョウは思いながらも、バーテン業で培った営業スマイルをした。


「どうもどうも。俺、新参者でして」


「あぁ。だからなんだよ」


「このあたりのこと教えてもらいたいなーって」


「うるせぇ。俺はこれから団処だんしょに行くんだ。知った事かっての」


「団処?」


「ちっ、うるせぇな。団処ってのはな、牛とか馬を相手に獣姦したら堕ちる所だ」


「ってことは旦那、経験者?」


「おうよ」


 自慢げに鼻を鳴らす後田に、リョウは心底吐き気がした。


 女日照りの大昔ならいざしらず、今の時代に牛や馬とわざわざするか!?


「昔は亡者がここで獣姦すると牛馬の体ん中が燃え、性器を通じて俺らの体を焼くって地獄だったそうだが、今じゃ焼肉と馬刺しが食える────そうだ、ニィちゃん。金持ってるか? 連れて行ってやんぞ?」


「マジすか、いきましょう」


 無一文だが、リョウはにやりと笑った。


 その様子を遠くから眺めていた東雲は、いつものにへら顔ではなく、まるで能面のように無感情な表情を浮かべて、一人先に指を鳴らして消えていった。











 団処の入り口には「焼肉だんしょ」の看板があり、香ばしい肉を焼く匂いに満たされていた。


 店ではなく、野外にテーブルと椅子があり、BBQみたいに亡者たちが肉に舌鼓を打っている。


 牛や馬と性行為に及ぶという、ちょっとおかしい奴はそもそもの数が少ないらしく、辺り一面遥か遠くまで並んでいるテーブルに座っている亡者の数は少ない。


「とりあえずビールな」


 一番手前の席に座った後田は、獄卒の鬼女に注文しつつ、その尻を掴んだ。


 撫でるとか軽く触るではない、握りつぶすかのように掴んだのだ。


「きゃっ!」


 鬼女はまさに鬼の形相になったが、震える拳をこらえてどこかに去った。


「くけけ。ここはいいところだぜニィちゃん」


「そうみたいっすね」


 リョウはテーブルの下で見透かしの珠をかざしている。


『けっ、新入りが。ここの飲み代全部こいつに払わせてやるとするか。なぁに。ちょっとトイレに行く振りして走りゃ追いつけやしねぇ』


 なるほど、とリョウは微笑みつつ、ビールを持ってきた鬼女に「すいません、テキーラください。ボトルで」とお願いした。

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