第18話 リョウちゃん、脈脈断処に行く。

 脈脈断処みゃくみゃくだんしょ


 男性に淫らな性行為を迫った女性が落ちる場所。


「痴女的な?」


「大昔は女性から『セックスしよう!』なんて言ったらもう地獄行きってくらい恥ずべきことだったんですよ」


 東雲は遠い目をしている。


「時代遅れ感がひどいな。で、ここの刑罰は?」


「ここでは筒を通して口の中に溶けた銅を流され………」


「銅を流し込むの好きだな。一旦溶かすのも溶けてる状態を維持させるのも手間じゃないのか」


「まぁ、そうですねけど、銅を流し込むだけじゃないんです、ここ」


「お?」


「私は今、孤独です!って大声で叫ばないといけないんです」


「ふぁ?」


「どうしました?」


「叫ぶだけ? 必要なのか、その罰」


「まぁ、銅を流し込むのも叫ぶのも昔の刑罰でして、今は………」


「ご町内のカラオケ大会か?」


「大声選手権です」


 女たちがマイクを持って「私はいま孤独ですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」と絶叫してデシベルを競い合っている。


 壇上に上がるの待ちしている女性の年齢層の広いこと広いこと。


 下は小学低学年? 上は棺桶に片足突っ込んだようなお方まで。


 淫らな性行為を迫ったとは思えないほどの年齢の女性が混じっていることに、リョウは違和感を覚えた。


「なぁ、あのあたりにいるガキンチョもエロいことを男に迫ったのか?」


「男児のほっぺにチュウした者とか、ふざけてキャンタマをズボンの上から触ったり握ったりした者でしょうね。幼少期にお亡くなりになってそのままここに。可哀想なことです」


「それ、じゃれ合いのレベルだよね? そんなんで地獄に落とすとか鬼かお前ら」


「鬼なんですよ」


 東雲はこのやり取りに慣れているのかすぐさまツノを見せてきた。


「まぁ、あの手の幼子には救済処置がありますので」


「どんな?」


「たまに地蔵菩薩がやってきて、いい子にしていたら天国に引き上げてくれるんです」


「ほほう」


「いい子にしていれば、ですが」


 ステージに立った幼女がデスボイスで韻を踏みながら「ワタシハ! イマ! コドク! DEAHTゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!」とシャウトしている。


 どこから持ってきてやったのかわからないが、顔にも黒いメイクを入れて本格的だ。


 その後ろに並んでいる幼女たちは煙草をくゆらせながらこちらにガン飛ばしている。


「見なかったことにしよう。………あの婆さんたちは?」


「あれは本当に若い男を追いかけ回して鉈で脅かしながら迫った連中です。山姥やまんばってやつですね」


「三枚のお札で逃げるってあれか」


「そうですそうです。現代にも語り継がれています?」


「あんまり覚えてないけどよ。たしか小坊主を取って食おうとしたけどトイレ行きたいとか言うもんで紐で縛ってトイレに行かせたら、さっそく小坊主は1枚目の札をトイレに貼って、小坊主の代わりに返事させてる間に逃げるとか、そんな感じ」


「んー。一枚目の御札はトイレで襲われそうになった小坊主が山姥の股ぐらに貼り付けて、それを剥がす間に逃げたんですが。痛いんですよね、毛がくっついて」


「日本の子どもたちに愛される古典童話を下衆な話にしてんじゃねぇよ!!」


「ちなみに2枚目の札は大量のミルキーウェイを山姥にぶっかけ、飲み干している間に逃げるというやつで」


「もういい。わかった。シモネタだよな? いらない。老婆に白濁液をぶっかける状況説明とかいらない。次にいこう、次!」


「はいはい」


 私はいま孤独ですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!! の絶叫を背景に、東雲は指を弾いた。


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