第16話 リョウちゃん、大量受苦悩処に行く。

「時代によって異常とされる性行為の質が変わるものですから、地獄が対応できませんので………無限に近い時間、その異常な行為とやらを思う存分飽きても飽きてもやり続ける刑場となりました」


 東雲は鼻孔に漂ってくる淫靡な匂いをパタパタと手で払いながら言う。


 リョウからすると、この刑場全体が栗の花の匂いと言うか、汁と汗がじゅぶじゅぶになったような音とか、あちこちから聞こえてくるあはんうふんな声とか、実にけしからんと鼻の下を伸ばしていた。


 いっとき歩くと、道沿いに2畳程度の広さしかないであろうプレハブ小屋が連なっていた。


 道を挟んだ対面の小屋には中の様子がまるわかりのガラス張り。


 両隣にも薄い壁一枚しかないし、これでもかと言わんばかりの「覗き穴」が拵えてある。


「なんだこの小屋は」


「例えば、ほら、あすこ。片方が筆舌に尽くしがたい行為を行うと、壁に開いた穴から隣を覗き見ていた隣人がさらにエグい方法で形容し難い行為を行う。するとそれを覗き見ていた隣人が更に………」


「オナニー部屋かよ」


 リョウはがっくりと肩を落とした。


 ここのプレハブ小屋は亡者たちがいろいろな媒体を用いて自慰行為に勤しむ刑場らしい。


 ちなみに亡者に男女の区別はないらしく、隣の異性がどんな自慰を行っているのか様子を覗き放題のようだが、両隣と真向かいが男だけで意気消沈している亡者もいる。


「ただの小屋なんですが充実してるんですよ、アイテム」


「アイテム?」


「たとえばケーブルテレビでもインターネットでも、エロい動画番組は月額課金ですべて見放題。媒体もタブレットからパソコン、テレビと、お好みに応じて使い分けられます」


「その月額は誰が払うんだ」


「もちろん亡者です。屎泥処しでいしょで働いたりした給金で………」


「あの下水処理場!? 完全にサラリーマンじゃねぇかよ」


「あ、そうそう。同じプレハブ小屋でも、生前好きだったシチュエーションを再現可能なんです。あの亡者は自室のベッドの上。あっちはトイレ、しかも学校のトイレみたいですね。ははは」


「どうりで栗の花臭いと思った……」


「あ、そうそう。ここの自慢と言えば、ほら、あれ。愛玩人形制作の最大手【オリエンタル工場】で作成された最新式ラブラブ人形も各種ご用意。お好みに応じてカスタマイズも出来ます」


「それでここの亡者は飽きても飽きてもシコシコしなきゃならなくて苦しんでるってか?」


「いいえ、枯れることなくいくらでもできるので、もう猿のように四六時中飽きることなく頑張ってますね。は人間界でいくらでも提供され続けていますし」


「そういう性欲があるのにも関わらずなにもできなくて辛い! みたいな苦しみを与えたほうがいいんじゃないのか?」


「ふむふむ、ほうほう」


「お前、さっきからやたらメモ取ってるけど、なに?」


「山内さんの考える刑場についてメモらせて頂いています」


「な、なんで?」


「ふふ、まぁ、追々。次に行きましょうかね」


 東雲はにへらと笑った。




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