第13話 リョウちゃん、等喚受苦処に行く。

 リョウは黒縄地獄を案内されても、イマイチその内容が頭に入ってこなかった。


 リョウを案内する東雲。


 漂々としたこの獄卒が抱えている闇が大きすぎて、受け取れないでいるのだ。


 ──私は元人間で、咎人とがびとへの恨み辛みを晴らすため、獄卒になりました。


 ──いえね……ある狂人に家族を殺されまして。なのに人間の法では「無罪」とされたんです。精神疾患だから、と。


 ──そいつを罰するために地獄に堕ちて、人ならざる者にまで成ったというのに、これですよ。このくそヌルい楽園のような地獄です。


 ──私の家族の命を奪った者も生きてますよ、ここで。


 ──そして獄卒である私には手出しができない。悔しい限りですねぇ。


 東雲は「悔しい」と言いながらもにへらと笑っている。


 見透かしの珠だけでは見透かせない大いなる闇を感じ、リョウは言葉も少なくなった。


 そんな中、まだ地獄の案内は続いている。


「ここは等喚受苦処とうかんじゅくしょ。生きてる時に適当な説法をしたり、崖から投身自殺した人達が落ちる所です。崖以外からの投身自殺は含まれないって云うんですから、本当に古いシステムですよねぇ」


 東雲は目を細めている。


 リョウの眼前では、ロッククライミングする亡者たちがいた。


 地獄の亡者は崖が大好きみたいだ。


 これまではバンジージャンプしたりパラグライダーで飛んだりとエンジョイしていたが、今度はロッククライミングときた。


「ご存じですか? ロッククライミングは岩を登る行為の総称であって、特定の山の山頂を目指すタイプのアルパインクライミングと、登頂を目指すのではなく登ること自体を楽しむためのスポーツクライミングにわかれるそうです」


「どうでもいいわい」


「ちなみに等喚受苦処とうかんじゅくしょの崖は、フリークライミングです。道具は使わず命綱もありません。あ、そういう意味だと、今流行りのボルダリングとも言えます?」


「ボルダリングは5メートル以下だろ。あれ、落ちたら一発で死ねるぞ」


「死ぬなんてことは地獄ではないんです。例え落下死したとしても、ひと風吹けばもとに戻るのですから。だから死に慣れた亡者たちは命綱もせずにあの崖を登って楽しんでいるのです。あ、ちなみに崖の下には刀が突き出す熱い地面と、燃える牙を持つ犬もいたんですが、今では安全を考慮したセーフティーネットになっています」


「そのネットの紐をすげぇ固い釣り糸とかにしたら堕ちてきた奴ら、みんな肉片になるんじゃねぇか?」


「ほほう……あ、次は旃荼処せんだしょですね」


 東雲はにへらと笑う唇の端を吊り上げた。

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