第9話 リョウちゃん、 闇冥処と不喜処に行く。


 闇冥処あんみょうしょ


 羊や亀を殺した者が落ちる所。


「いや、ますます限定的だな!」


 場所の説明をする東雲も「そうなんですよねぇ」と首を傾げる。


 だが、その仕草をリョウは見れなかった。いや、見えなかった。


 足元を照らしている和蝋燭のお陰で、なんとか東雲の革靴は見えるが、膝から上は闇の中だ。


「ここはご覧の通り真っ暗闇な刑場でして。昔は闇火あんかとか熱風で亡者を苦しめる場所だったんですが、今は天国からのクレームで『見えなくて転んだらどうする』とか『もっと亡者のみなさんがくつろげるシステムを』とか言われましてね」


 その結果、ここは「ただ暗いだけ。しかし安全に配慮してフットライト完備」という刑場になったようだ。


「天国は亡者をどうしたいんだ? 生前悪いことをしたから地獄に堕ちたんだろ?」


「そうなんですよねぇ。山内さんも含めて悪人だから罰せられるところなんですよ、本当は」


「俺はそんなに悪人じゃなくね?」


「それは私が決めることではございませんので。さ、ここは見ていても思春鬼とか発情鬼が闇の中からこちらを見てハアハアしているだけで、大して面白くないので次に行きましょう」


「なにその鬼。超見たい」


 しかしすぐに視界は変わっていた。


「ここは不喜処ふきしょと言いまして、大きな音を立てて驚かせたうえで鳥獣を殺した者が落ちるところです」


「脅かすこと前提!?」


「はい。昔は法螺貝で驚かせていたそうです」


 視界いっぱいあちこちから爆炎があがっているが、その炎の周りには柵がしてあり「立ち入り危険」と注意書きがしてある。


「ここに落ちると鳥とか犬に肉や骨の髄まで食われるというシステムだったのですが、天国の動物愛護団体からクレームが………」


 炎の間を犬や猫や鳥がメルヘンチックに遊び回っている。


 亡者たちは犬をドッグランで走らせたり、猫とゴロゴロ戯れたり、鳥に餌を与えて肩に載せたりして、ほんわかムードが漂っている。


 むしろ炎が不必要なだけで、気分はペットカフェだ。


「あれは………」


 リョウは動物を斜に見ている亡者に気がついた。


 いつだったかニュースで「猫を大量に殺した」とかで動物愛護法違反で逮捕された青年だ。


 他にも他人の飼っていた猫も誘拐して殺害したとかで器物損壊罪も受け、ネット上で顔を晒されて「最低の男」と話題になっていた。


「猫嫌いにはつらい刑場ってことか」


「ああ、あの亡者ですか。ここの動物たちは亡者より強いですからね。殺せるものなら殺してみろって感じです。ははは」


「むしろああいうやつは動物から骨まで食われて死ぬべきだろ」


「ここに務めている動物たちからすると亡者は美味しくないそうでして、ほら、愛護団体が『まずいものを食べさせるな』ってクレームを……」


「ほんと、地獄ってなんのためにあるんだろうな」


「まったくです。けど、ここの等活地獄はまだ罪レベル1くらいのゆるいところなので」


「そうなの?」


「ええ。黒縄地獄とか衆合地獄とか、どんどんレベルが上がりますから。あなたはむやみに殺生したと言っても害虫でしょうし、落ちるとしたらここではないでしょう」


 リョウはごくりと喉を鳴らした。


 一体どこに落ちるのかと不安になったのだ。


「さ、次は等活地獄の十六小地獄最後の極苦処ごくくしょです」


「最後? 16も巡ったっけ?」


「いえね。他にも衆病処、両鉄処、悪杖処、黒色鼠狼処、異異回転処、苦逼処、鉢頭麻鬢処、陂池処、空中受苦処ってのがあったんですが、もう今となってはなんの罪で落ちるべきところなのかも定かではないので廃止されました」


「廃止されてるのに詳しいんだな」


「獄卒は全部の地獄を暗記するように筆記試験がありますから」


「試験があるのかよ。てか、あんたも鬼なわけ?」


「ええ、私も獄卒ですよ。ほら、ここにツノが」


 東雲は前髪をかき分けた。


 そこには硬質な小さな棘が二本生えていた。


「他のあのクリーチャーみたいなのは違うんだな?」


「それはどうでしょう。さ、極苦処に行きましょう」

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