第8話 リョウちゃん、心中覗き見る。

 多苦処たくしょ


 人を縄で縛ったり、杖で打ったり、断崖絶壁から突き落としたり、子供を恐れさせたり、拷問で苦痛を与えた者が落ちる場所。


 そう東雲から説明を聞いて、リョウは白けた眼差しをした。


「すげぇ限定的な罪だな」


「そうなんですよねぇ。時代にそぐわないんです。だからほら、ここにいるのはSM調教師とか………」


「って、きぐるみ多くないか?」


「子供を恐れさせた罪で堕ちてきたんですよ」


「えー、アトラクションの花形だろうに」


 世界最大手アミューズメント企業のマスコットキャラクターが、どこのなにともわからないご当地に囲まれて正座している。


「てめ、こら、ちょっと名が売れてるからってうぜぇんだよ」

「そのなんともいえないこもった甲高い声やめろや」

「そう○っしー!」


 若干一名、非公認ゆるキャラも混じって、超有名キャラを足蹴にしている。


 見た目はファンシーなぬいぐるみたちが戯れているようにしか見えない。


「ここはアレか。亡者同士が争う刑罰か?」


「いいえ。ここは多苦処の名の通り、十千億種類の苦しみが用意されております」


「十千億ってどんな単位だよ。1兆ってことか?」


「ええ、まぁ。意外と細かいですね山内さん」


 東雲は「ではさっそくご体験ください」と言い残して煙のように消えていった。


 体験もなにも………このあたりは気分しかしない。


 ☓型の板に張り付けられたボンテージ姿の女が、獄卒にムチで叩かれて悲鳴とも喜声ともつかない声を上げている。


「ああ! もっと! もっと私を叩いて!」


「まじ勘弁してくださいすよ、もう! 四時間叩きっぱなしじゃないですか!」


「そんなことでへこたれてどうするのよ! あなた獄卒でしょ! ほら、もっと心を込めて私を叩きなさい!」


「うわああああん」


 どういうことだ。


 嫌そうな顔をしてろうそくの蜜を垂らしている獄卒の下には歓喜の声を上げる中年のおっさんがいるし、水攻め、針攻めなどの高等プレイを獄卒に強要しているドM共の嬉しそうな悲鳴が辺り一面に満ちている。


 共通していることは獄卒が強制労働させられているということだけだ。


「どっちにとっての地獄なんだ、これは」


 サドでもマゾでもない獄卒の方が辛そうだ。


 しばらく歩くと断崖絶壁までのロープウェイがあり、上から「ひゃっはー!!」とバンジージャンプを楽しんでいる亡者の群れがいた。


「断崖絶壁から突き落とした人たち用」と看板があるが、絶対数が少ないようで、ロープウェイも無人で昇り降りしている。


 きぐるみたちが走り回り、バンジージャンプに、SM広場。


 健全と不健全が混在しているが、リョウの感想は「この地獄、必要か?」だけだった。


「あのー、もし」


「はい?」


「あなた、新入りの亡者ですよね?」


「はぁ」


 どうも気弱そうなクリーチャー、いや、獄卒が寄ってきた。


「見学ですか?」


「はい」


「なにか体験されます?」


「いや、別に」


「同じ亡者の女の人を叩いて楽しむこともできますけど」


「いや、そっちの趣味は………興味はあるけど別にこれといって」


「お! 興味ある系です? ちょっとやりましょうよ旦那! 気分が晴れますよ?」


「ポン引きかよ」


 リョウは揉み手でへこへこしている獄卒を見て、深いため息をつき、思い出したように水晶を手にしてみた。


(いやマジ人間の欲望際限なさすぎ。俺の代わりにムチでバシバシやってくんねぇ? もう手が疲れて死にそうなんだよね。まぁ叩けば刑期と刑罰が増えるんだけど、そんなこと言わなくてもいいか)


「なるほど」


 リョウは冷ややかな眼差しで獄卒を見て「お断りだボケ」と呟いた。

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