第5話 リョウちゃん、刀輪処に行く。

「いやぁ、山内さんはここに就けないんですよ」


「は?」


屎泥処しでいしょは鳥や鹿を殺した者が就くところでして」


「………」


「とりあえず一通り見て回るって言ったじゃないですか~」


 東雲のニヘラ顔をぶん殴ってやりたいと思ったが、リョウは我慢した。


「次は刀輪処とうりんしょという所です」


 東雲が一弾指すると、また光景が変わった。


 吸い込む空気に熱さが混じり、視界が曇る。


「?」


「ここは刀を使って殺生をした者が落ちる場所でして、山内さんには関係ない所ですが、まぁ見学なんで」


「はぁ」


「ここは元々、下からは猛火、上からは焼けた鉄の雨が降るという拷問部屋でした。外も両刃の剣が雨のように降り注ぐという場所だったんですが………ご覧のとおりです」


「サウナ?」


「まぁ、そうとも言います」


「ここに何日も閉じ込められたらたしかにきついな………」


「いえいえ! 10分から15分で出てもらいます」


「は?」


「コツは上段の温度の高い所で短時間で汗を出すことですかね。そのほうが心臓等への負担が少ないそうですし」


「………?」


「ここを出たら静かに水風呂に浸かるといいです。水風呂を入ったらまたサウナに。これを3回繰返すのが刑務です」


「それ………なんか苦しいの?」


「たまに背中に冷たい水滴が落ちて『ひゃっ!』となるのが一番つらいと聞いています」


「それだけかよ。サウナ入って逆に健康になるんじゃねぇの?」


「ああ、そうそう。ここを出たら休憩室に入って頂くんですが、置いてあるのは水とフレッシュジュースだけでして、キンキンに冷えたビールが飲めないのは辛いという亡者の声が強く、とても辛い刑場だと天国の人たちは認識しているようです」


「………」


「一日3回サウナと水風呂に入る刑務を行ったら、休憩室を経て、宴会場で食事。あとは自由です。個室もありますので………」


「まさかここでも給料が出るとかないよな?」


「もちろん出ますよ。固定月給ですが。あと裁量労働制なので出勤時間は自由です」


「………サウナ入るのサボったらどうなるの」


「獄卒の鬼たちに怒られます。心えぐられて死を選びたくなるような激詰めです」


「なるほど、堕落しやすい環境に置いて、本当は鬼に絞られることが目的か」


「お、ちょうどあそこで叱られている亡者がいますね」


 リョウは生唾を飲んだ。


 二メートルを超える筋骨隆々の、見た目がとても地上の生物ではありえないほど不気味な「鬼」が、小柄な中年男性と机を挟んで座っている。









「なんで昨日刑務をサボったんです? あ、お茶どうぞ」


「………ちょっと、気が乗らなくて」


「ふむふむ。刑務に飽きましたか?」


「は、はい。そうですね………」


「そういうときは生活リズムを変えてみるとか、獄医面談を受けてみるとか、あとは獄卒わたしに相談して頂ければ、有給を取得してリフレッシュすることも有効ですよ?」


「はい………」


「わかりますよ。毎日同じことの繰り返しで自分の存在理由がわからなくなったり、心にぽっかり穴が空くような感覚ってありますよね。けど、この刑務以外のところで趣味を持ってみるとか、生活に張りをもたせるなにかを見つけることで、案外楽しくなるものですよ」


「そうでしょうか………」


「自覚症状はないでしょうが、軽度うつ病だと思います。あぁ、そうだ。あなたは来月で刑務3ヶ月目ですよね? 半年勤めれば賞与が出ますから、それを目指してみてはいかがでしょうか。2.5ヶ月分ですよ! なんにしても目先に目標があるほうがいいと思うのです」


「お、おお………ご、獄卒さん。ありがとうございます」











「優しすぎかよ!」


 リョウは思わずツッコミを入れてしまった。


「ご時世でして」


 東雲はニヘラと笑った。

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