魔生機甲レムロイド ~ 異界のロボットデザイナー

はじめに

『魔生機甲レムロイド ~ 異界のロボットデザイナー』を通してロボモノを読もう!

 ロボットモノの主人公は、パイロットであることが多い。

 例外はあるものの、極めて特殊なケースを除けば、パイロットである。『勇者シリーズ』の少年達は、時々守られる側で観察者、そして勇者と呼ばれるロボット達の友人で仲間だ。また、ロボット自体が意思を持つ作品では、ロボット個人自身が主人公として描かれることも多い。

 だが、多くの場合、日本のロボットは人間が搭乗するものだ。

 そして、その中でも主人公だけが、特別な機体に乗ることが多い。


 これは当たり前だが、古来より脈々みゃくみゃくと受け継がれてきた娯楽創作の基本でもある。さむらい騎士きしがテーマならば、主人公は侍や騎士だろう。貴族や王様がテーマであれば、基本的には王族ないしそれに近い立場の人間が主人公になるべきだ。勿論もちろん、そうでない作品もあるが、娯楽作品ではストレートな表現を用いることが好まれるだろう。

 だから、ロボットモノならば主人公はロボットに乗る。

 何も不思議ではない。

 ただ、ロボットに乗った主人公が常に同じとは限らない。


 昔は『マジンガーZ』や『ゲッターロボ!』等の、スーパーロボットの世界観が主流だった。そこでは主人公は特別な存在、一種のヒーローである。身体的にも精神的にも恵まれ、多くの視聴者がうらやむほどの能力を持っている。そして、その最たるものとして『スーパーロボットを唯一操れる人間』であることが描かれるのだ。

 そう、当時は単純に『ロボットに乗れるなんて羨ましい!』と思われていたのだ。

 しかし、この勧善懲悪かんぜんちょうあくでシンプル・イズ・ベストな世界観に変化が訪れる。

 『機動戦士ガンダム』に端を発した、リアリズム主義だ。そこでは主役ロボットは、特別な機体であると同時に『敵のロボットと同じカテゴリの兵器』であり『試作機だから』『最新型だから』という、現実世界でもワンオフモノである理由と同じ設定がなされた。

 そして、同時に主人公達も無敵のヒーローではなくなっていったのである。

 アムロ・レイは内向的なオタク少年で、気難しくナイーブな十代の少年だった。

 キリコ・キュービィは任務に忠実な兵士でしかなく、異能生存体故に世界を捨てる。

 リアルロボット世代が、ロボットモノ主人公にしてロボットパイロットを『できすぎた人間であるべきという既存きぞん概念がいねん』から解放したとも言えるだろう。


 さて、それ以降はスーパー系、リアル系の別なく主人公は多様化していった。劣等生がロボットの扱いだけは上手いとか、全人類から選ばれた希望の戦士だとか、実は巻き込まれてしまった普通の高校生だとか。世界転覆を目論むテロリストから、亡国の王子、果ては警察官から自衛官までと多彩である。

 そんな中、芳賀ほうが 概夢がいむ先生の『魔生機甲レムロイド ~ 異界のロボットデザイナー』は異質、そして偉業を成し得た作品と言えるのではないだろうか。今日は少し、この作品の魅力を紐解ひもときつつ、本作がどのようにして名作足り得たのかを少し語りたい。


 まず、レムロイドには驚く程『ロボットモノ特有の』というものが少ない。『ロボットモノ特有の』についても、ほぼない。言ってみれば『王道』や『お約束』を、小手先レベルで使っているシーンがほとんどないのだ。

 ちょっと少しずつ読ませてもらってるが、読んだ範囲内には見当たらなかった。

 例えば、増加装甲フルアーマーで着膨れさせておいて、ここぞという時に脱ぐ。

 例えば、巨大な追加装備と合体し、人間の姿を失った異形の兵器になる。

 例えば、主役ロボがボロボロになると二号ロボが助けに来る。

 例えば、例えば、例えば――

 ロボットコンテンツには尋常ならざる造詣ぞうけいがあると自負している自分だからこそ、驚かされる。

 レムロイドは、書き手が楽をしていないのだ。

 もっとロボモノファンに刺さる表現や描写がある、もっと『男の子ってこういうのが好きなんでしょ』とエクスキューズする賢いやり方があるのだ。しかし、それをやらない。だから、ロボットモノの常識や経験がない読者が楽しめる。読者が楽しめるように、作者が気を配って心を砕いている箇所は無数に見受けられた。


 では、レムロイドがどういったもので構成されているのだろうか?

 どのような要素を得て、何に感動して、芳賀 概夢先生はこの物語を生み出したのだろうか。それは勿論もちろん、ロボットモノもあっただろう。だが、氏が換骨奪胎かんこつだったいしたものの中には、ロボットモノと同じくらい、普遍的な娯楽作品の様式があったように思える。

 例えば、今流行の

 そして、ファンタジーな世界観での魔法、魔力といった設定。

 そこに『ロボットをデザインする主人公』というエッセンスを加えた。

 操縦する者であると同時に、……そうした視点で描かれた物語から、あえて『安易なお約束』を廃する。それは、偉大な先達が大勢で生み出した、長年かけて洗練された様式美、伝統技法だ。それを決して多用しない。

 ロボットコンテンツを知らない者達に受けたロボットノベル。

 ロボットが好きじゃなくても楽しめる娯楽作品という点に、やはり驚くのだ。


 そんな世界観で、芳賀 概夢先生が外伝を書いている。

 自ら完結させた世界の、そのエンディング後の物語がつづられていた。

 そして、そこには洒落しゃれた遊び心と同時に、残された世界のありかたが語られていた。主人公が現実世界より現れ、異世界を救ったあと……果たして救われた世界はどうなっているのか。

 そんな世界で、自分の好きなガンダム作品のパロディ的なノリをブチ込んだ。

 絶対に『ロボモノが好きならわかるでしょ?』って言わない作品の中で、ちょっと極端に遊んでみたのだが、何が書きたかったかについてはこの場では伏せておくことにする。物書きとは相応にして、何か書きたかったかを作品の外で語るのは無粋だからだ。語らずとも作品の中でだけ描き、それを読み取らせなければならない。

 当たり前だが『だったらそうわかるように書けよ』と言われてしまうこともある。

 それはさておき、多くのロボットノベルがひしめくカクヨムにおいても、レムロイドは異彩を放っている。三機神さんきしんと呼ばれる大ヒット三大ロボノベルはどれもが、それぞれに巧みな魅力を放っていて、レムロイドにはキャッチーでポップなライトさがある。これはちょっと真似まねしてみても難しくて、いつも舌を巻いてしまうのだった。


・魔生機甲レムロイド ~ 異界のロボットデザイナー(芳賀 概夢)

https://kakuyomu.jp/works/1177354054880245000


敬称略

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