4-17 おじいさんからの預かりもの
「それにしても、普通なら亡くなってる年齢なのに、皆さん生きていると信じるのは何か根拠あるんですか?」
信次郎さんが退席し、おかわりを入れてくれたアサツキ茶と一緒に出された花月堂のアサツキシューを食べながら浅葱さんに尋ねた。もうココまで来たらアサツキの洗礼というか浅葱町のお約束と思おう、うん。
「浅葱家は代々長命ですからね。曾お祖父様は事故のため70で亡くなりましたが、他は90歳や100歳を超える方が多いのですよ。」
へえ、それはすごい。長寿の遺伝子ってやつだね。
「はあ、いつもアサツキ食べてるおかげですかね。ネギって血液サラサラにするし。そういえば、おじいさんは以前、療養中と聞いたから病気なのかと思ってましたが、元気そうですね。」
そう尋ねると総一郎さんは嘆かわしいというように頭を振って答えた。
「ああ、以前お話したと思いますが、ノックで伊豆大島御神火太鼓のフル演奏にチャレンジしたのが祟って両手打撲と指の骨にヒビが入って2ヶ月入院してましたから。年だからワンコーラスで留めれば良いものを。」
…えーと、どっから突っ込んでいいのか。
「正直、私は大伯父は亡くなってると思ってますし、祖父の気の済むようにさせようと思ってました。絵画という証拠があるから異世界の存在は信じても、まさか本当に異世界に行き来できる人が現代にもいるとは思ってませんでした。」
「だから浅葱書店の兄ちゃんにスパイさせたり、図書館とかに出没してワタシの動向を探ってたんですね。もし、ワタシが異世界の人間でなかったらどうしたんですか?」
「その時は浅葱家の秘密をかぎまわる者として…まあ、しかるべき所に。」
そ、それって抹殺ってコトか?!意外と怖いぞ、浅葱家。S県に海があったら浮かんでいたのだろうか?い、いや川かもしれない。
「ニャ?」
タマが不穏な空気を感じたのか不安げにワタシに鳴いてくる。ワタシはタマを安心させるように目線を落として優しく語りかけた。
「ああ、大丈夫だからタマ。アサツキいただいたし、お礼を言いなさい。」
「ニャ~♪」
「まあ、冗談ですよ。ただ、あれこれ探られたくはないから、口止めは頼みますね。」
いや、クリスマスの時に詰め寄られた時の目はマジでした。きっと、過去にも…いや、詮索はよそう。
「それにしても、浅葱町側から行く人間はいないのですね。タマは行き来できるのに?」
「それが不思議なんです。あの建物は浅葱家に限らずいろいろな人が出入りしていたのに浅葱町側から異世界…田中さんの世界へ行けたのは大伯父のみです。動物は…うーん、アッキー以外にも野良猫とかは行き来してるかもしれませんが。」
ふむ、あの仮説をぶつけてみるか。
「…たぶん、敬一郎さんはとても常識人で真面目な方だったんじゃないですか?」
「確かに頑固というか真面目一辺倒で融通がきかない性格だったらしいです。だから家出をしたのですが、それが?」
やはり…そうだとするとその世界に近い気質の人が出入り出来るとする仮説が正しいんだったら。ワタシもかっとんだ変人なのね、ううう。総一郎さんが行き来できないのはワタシの知らない変人気質があるのかもしれない。
「どうしたんですか?」
頭を抱えているワタシを具合悪いのかと思った総一郎さんが不安げに尋ねてくる。
「いえ、ある仮説に行き着いでちょいとヘコんでるだけです。ところで、もしも敬一郎さんに会えたら渡して欲しいとおじいさんから預かったこの箱、ずいぶん年季が入ってますね。」
改めてみるとラッピングこそ新しくしたが、先ほど見せてもらったラッピング前の木箱は随分と古びていた。中身まではワタシには見せてもらえなかったが、劣化していないことは確認済みなのか、同じものを新調したのだろう。
「曾おじいさまがずっと持っていた物だそうです。おそらく息子が帰ってきた時に渡そうとしていた物なんでしょう。」
中身はなんだろ?まさか中国のヒスイでできた白菜みたいにヒスイ製のアサツキじゃないだろうな。この街ならありえそうだ。
まあ、いい、これも詮索するのは野暮なことだ。
「では、そろそろおいとまします。来週また来ますね。」
ワタシはタマ共々お礼を言い、浅葱家を出た。
「ふう、ワタシのカンが正しければいいのだけど。うまく行くといいねえ、タマや。」
バスケット越しにタマに話し掛ける。
「ニャー」
そうやってタマに話し掛けながら、商店街の入口にさしかかった時だった。
「あ、この人でございますわ!」
ん?目の前には制服姿の女子高生三人組がいる。何がこの人なんだ?
「花月堂のタカヒトさんの彼女とおっしゃる方!」
黒髪ロングの子が唐突におかしなことを言い出した。は?誰が彼女だ?
「え~こんなオバサンがぁ!?」
茶髪ショートの子がいきなり失礼なことを言う。ひどいなあ、人間は等しく年を取るんだよ。
「こんなのがぁ?!え~チョー納得いかなぁい!」
メガネっ子がギャル言葉っぽく毒づく。
…そういえば以前ケイさんが『タカヒトにはファンクラブがある』と言っていたが、ホントに女子高生のファンクラブがあるんだ。しかし、思い切り誤解され、なおかつ嫉まれている。
なんだか、またややこしいことになりそうだ。やれやれ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます