生贄と太陽の神
この国には、古くから神に生贄を捧げる習慣がありました。生贄となるのは14歳~16歳までの少女で、今年は16歳の少女が生贄として選ばれました。
少女の名はアンジェリカ。美しい金の髪と、世にも珍しい
アンジェリカは生贄に選ばれた事をとても光栄に思いました。それは、両親や国がとても光栄な事なのだと、彼女に刷り込んだからです。
色とりどりの花で飾られた、華やかなドレスを纏い、アンジェリカは神殿への道を騎士達に護衛されながら、ゆっくりと歩いていきます。
人々はアンジェリカの華やかな姿に拍手を捧げ、彼女を見送りました。
神殿へ辿り着くと、騎士達の護衛は終わり。アンジェリカは1人で神殿の最上階にある祭壇へと向かいます。
階段をひたすら上り、疲れたらその場で座って休む。を繰り返して、なんとか祭壇へと辿り着きます。祭壇には、司祭と、美しい金の
「アンジェリカ、この方が我が国の平和を守る太陽神、テスカリオ様だ」
「この度は生贄に選んで下さり、光栄です。テスカリオ様」
アンジェリカはドレスの両手で摘んで広げて、恭しくお辞儀をしました。
「さぁ、アンジェリカよ。こちらに来なさい」
「はい」
司祭に呼ばれ、アンジェリカは太陽神へと近付きました。
アンジェリカの心は穏やかで、恐怖なんてものはありませんでした。あるとすれば、愛国心と、初めて間近で見る、獅子の姿をした太陽神への興味でした。
『司祭よ、彼女と二人きりにして欲しい』
太陽神は司祭に言いました。司祭は「わかりました」と一礼して、祭壇を降りて、別の部屋の扉の向こう側へと姿を消しました。
「さぁテスカリオ様、どうか私を、貴方様の力の源にしてください」
アンジェリカは、太陽神の前に座り、微笑みました。太陽神もその場に座り、じっと琥珀色の瞳で彼女の事を見つめます。
『アンジェリカ。お前は今までの者達の中でも一番輝いて見える。その清らかな自国への忠誠心、とても誇らしく思う』
太陽神テスカリオの言葉に、アンジェリカは「貴方様にそう思われるなんて光栄です」と心の底から嬉しそうに言いました。その、嘘偽りない彼女の言葉に、太陽神は少し沈黙しました。
この国は平和に満ち溢れてはいるが、人々の生活は他国に頼らないと、作物も満足に手に入らないのです。なので、この国にはもう一人神が必要だと太陽神は考え、アンジェリカならその素質があると思いました。
『アンジェリカよ、この国に足りない物はなんだ? 答えよ』
太陽神は問いました。
「はい、テスカリオ様。この国には愛も夢も希望も沢山ございます、ですが少しだけ資源が足りないように思えます……」
「私が欲張りなだけかもしれませんが」と言葉の最後に付け加えて、アンジェリカは答えました。
思った通りの返答に、太陽神は満足気の頷いて
『その通りだ』
と言いました。
『つまり、この国には豊穣の神が必要なのだ。美と愛と慈悲を持った豊穣の神が、な。アンジェリカ、お前はこれを兼ね備えている。どうだ? 私の妻になり、豊穣の神として一緒にこの地を守ってはくれぬか?』
太陽神の突然の誘いに、アンジェリカは少し動揺しました。元々は生贄になるつもりできたので、神になれと言われるとは微塵も考えていなかったからです。しかし、愛する国が豊かになるのならと、アンジェリカは思いました。
「えぇ、喜んで私は豊穣の神になりましょう」
『ありがとう、アンジェリカ』
太陽神はアンジェリカに礼を言うと、ひと吠えして司祭を呼び戻し、彼女が豊穣の神になる事を伝えました。すると、司祭は大いに喜び、早急にこの事を国の王様へ伝えました。
「国王様、今年の生贄に選ばれたアンジェリカという少女が、豊穣の神に選ばれました」
「なんと、これで我が国は更に豊かになるのか。あぁよかった」
話を聞いた王様は安堵し、国中にこの事を伝えるよう家来に言いつけました。
家来達は国中を馬で駆け、声を上げて国民達に伝えました。
「喜べ!! 我が国に豊穣の神が誕生した!! 祭事は三日後に行うので各自貢物を準備するように!」
国民達はとても喜びました。
アンジェリカが神になるという話は、彼女の両親にも伝わり、両親は涙を流して「よかった」と笑いました。彼女の両親の涙は嬉しさと安心の表れでした。
その日の夜、アンジェリカは祭壇で太陽神と共に過ごす事になりました。食事は、今日の貢物で、果物が多く、アンジェリカは喜びました。
『アンジェリカ、お前の神になった時の名前を決めなければいけないが、何が良い?』
「名前なんて、今のままで十分でございます」
遠慮をしたのか、両親から貰った名前が大事なのか。アンジェリカはそう答えて、葡萄の皮を剥いて口に放り込みました。口に広がる甘酸っぱい味と芳醇な香りにアンジェリカは頬を緩ませました。
『アンジェリカ。この名前も確かに美しくお前に似合っている。しかし、神は人の子ではないのだぞ?』
太陽神の言葉に、アンジェリカは困った顔をしてしまいました。
「それも、そうですね……失礼しました」
『名前など響きで決めればよい』
「響き……」
アンジェリカは祭壇から見える星空を眺め、瞬きを2つし
「テスカリオ様が決めてくださいな。私は神になると同時に、貴方様の妻になるのですから」
と、獅子の琥珀色の瞳をじっと見つめて言いました。
『良かろう……ルオリア。おまえの名はルオリアだ』
「ルオリア……素敵なお名前ありがとうございます、テスカリオ様」
アンジェリカは新しい名前の響きを気に入り、嬉しそうに笑い、素敵な名前のお礼にと、得意な踊りと歌を披露しました。
それから太陽神と彼女は祭りの日まで、一緒に過ごしました。
『お前と同じ人の姿の方がよいか?』
「獅子の姿も勇ましくて素敵ですよ」
という会話や
「テスカリオ様の黄金色の鬣はとても艶やかで素敵ですね」
『お前の髪の色も私と同じではないか』
「ふふ、お揃いですね」
などといった他愛のない話をして、過ごしました。次第に二人はお互いを好きになりました。
ついに祭りの日が訪れ、この日の貢物は豪華になり、果物以外にも雑貨などが混じっていました。
新しい神。ルオリアの誕生を国民全員が盛大に祝いました。
人々の信仰を受けたアンジェリカ——ルオリアは神格化され、正式に神となり、太陽神と共にこの国に平和と豊作を与えたのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます