淡水の人魚

 人から聞いた話なんだが、なんでも緒川卍楼おがわまんじろうという男には人間と人魚の間の子がいるという話だ。

 この緒川卍楼という奴はこの国一番の商売人でな、十何年か前に大陸の方へ商いをしに行ったそうな。で、道中に授かった子が人魚との子で、しかも驚く事に、その子供は真珠のように白く美し女子おなごという話だ。

 面白い話しが他にもあってな、なんでもそのお嬢さんは刺激に弱いらしく、陽の光も、海水もダメらしい。人魚ってぇのは普通、海に住むもんなのにな。だから、お嬢さんはお屋敷に大きな水槽を作ってもらい、そこで暮らしているんだが、外に出れねぇってのは何だか不憫でな。可哀想に思っちまう。

 でもな、そんなお嬢さんも、もう16歳になられて、お見合いをするらしい。その話を聞いた時、俺ぁ魚とお見合いさせるのかと思ったんだか、どうも見合い相手は人間だそうな。

 しかし、悲しい事にこのお相手のいい噂を俺ぁ聞いたことがねぇ。有名な商家ではあるが、なんだかくせぇ事もしてるという噂だ。

 人魚の血肉は、なんでも不老不死の力があるって噂があってな、きっとあの悪党はその力を狙ってるに違いない。

 そこで、俺ぁ卍楼に相手の悪い噂がある事を教えてやったんだ。

「おい、卍楼。お前んとこの嬢ちゃんと見合いする予定の若造は悪いやつだぞ」

「それは知っておる。しかし、あの若造の愛は本物だ」

 なんて抜かしやがるんで、俺ぁびっくりしたね。愛は本物だなんてさ。俺にはそうは見えなかったんだがな。

 しかし、卍楼の言うことは本当だった。見合いした日の夜。2人は姿を消しちまったのさ。

 卍楼が言うには、若造の親が人魚の血肉が目当てだったらしく、それにいち早く気付いた若造がお嬢さんを連れて夜逃げしたそうだ。で、卍楼は手を貸したのかと聞いたら、手を貸してないとな。

 だから、二人の行方は卍楼にも相手の親にも分からないんだってよ。

 あの二人はどうなったのかって? そりゃあ、お互い幸せに暮してるさ。

 なぜそんな事が分かるのか? こういう話の最後はいい感じに終わらせたい物だろ? つまりは、そういう事だ。

 さ、俺の話は終わりだ。あんたは俺にどんな楽しい話を聞かせてくれるだ?


——淡水の人魚——

   〜完〜

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