最終話 ごちそうさま。お代は全てあちらの方に。

最終話 ごちそうさま。お代は全てあちらの方に。 01

 倒れ伏した17番とミィの上に灰が降り積もっていく。17番は目の前に立つ33番を睨みつけながら必死に考えていた。


 全身がダルい。体が動かない。一体何を吸わされたのか。まさか毒ガス?


 指先一つ動かせない痺れの中、17番は目だけを動かして辺りを窺う。33番の周りには、いつの間にか複数の人間たちが集まってきていた。――どう見ても救援ではないようだ。


「あなた方、こんなことをしてタダで済むと思ってるんですか」


 彼らは答えず、その代わりに17番とミィを担ぎ上げた。17番は何も抵抗できずにただ奥歯を噛み締めた。


「大丈夫だもん……」


 俵担ぎにされたミィが弱々しく言う。後ろについてきていた33番がミィを見る。


「トシヤたちがすぐに助けてくれるもん!」


 すると17番とミィを担ぐ人間たちは声を上げて笑い出した。その笑い声にうすら寒いものを感じながら、17番は問い返した。


「何がおかしいんですか」


 17番とミィはボックスカーの荷台に乱暴に下ろされ、改めて両手両足を拘束された。人間たちは冷たく二人を見下ろした。


「お前たちはあいつらともう会うことはないんだよ、永遠にな」





「ミィ応答しろ、ミィ!」

「答えろ、17番!」


 いくら呼びかけても通信機からの返事はない。やがて通信機自体が壊されてしまったのか、耳障りなノイズが一瞬したあとに、通信機からの音は一切が途絶えてしまった。


「くそっ……現場に行きます! ロウさんは救援を!」

「ああ、分かった!」


 パン、と。二人がそれぞれで店の外に出る階段を駆け上ろうとしたその時、背後から乾いた銃声が一発響いた。トシヤとロウが振り返ると、そこには腹を押さえて崩れ落ちるシジマと、その向こうで拳銃を構えるシンゴの姿があった。


「何の冗談だ、シンゴ」


 トシヤは咄嗟にシンゴに拳銃を向け、問い詰める。しかしシンゴは何も答えようとせずに薄ら笑うだけだった。トシヤは拳銃を構えなおした。


「動くな。今からお前を――」

「動かないでください」


 突然背後から聞こえた声にトシヤは振り返る。するとそこには、外に待機していたはずの特務課の職員たちが銃口を向けている姿があった。


「ナメキ捜査官、ロウ捜査官。――あなた方には射殺命令が出ています」


「……は?」


 一瞬、思考がフリーズし、トシヤは間抜けな顔を晒してしまう。隣のロウは険しい顔をして特務課の職員たちを見つめていた。


「動かないでください。我々も他に犠牲者は出したく――」

「走れ、トシヤ!!!」


 鋭い声とともに一気に袖を引かれ、トシヤはほとんど転びかけながら走り出した。腕を引いたのはロウだ。二人は入口を固めていた職員たちに真正面から突撃し、怯んだ彼らの間を抜けて、店の外へと駆け出した。


 店の外には相変わらず灰が降っていた。混乱を避けるために遠くに警察車両を置いていたのが幸いに働き、店の外には拳銃を構える職員はほとんどいない。二人は繁華街方面へと必死に足を動かした。


 背後から何発か銃声が聞こえ、一瞬だけロウの走るスピードが落ちる。


「ぐっ……」

「ロウさん!」


 隣を走るロウは腹を押さえながら、呻くように言った。


「いいから、走れ!!」

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