3.待ち人~すれ違い3~

 さゆりさんのお父さんは苦笑いを浮かべた。ジジィトリオ、とくに鈴木のおっさんは、彼に嫌悪感むき出しだったんだろうな。顔を合わせるたびに喧嘩をふっかけていたりして。


「ふふ、昔からそうだったんですね。あのお三方は、私に父親がいなくても寂しくないようにって、常に考えてくださいました。小学校の時に、三人で父親参観日に来てくれたこともあります。それぞれ家庭をお持ちなのに」



 さゆりさんはおかしそうに笑う。ジジィトリオが参観日に来た日のことを思い出しているのかな。鈴木のおっさんは、授業中もうるさくしていそうだ。



「そうか、あの三人には頭が上がらないな。……これからは、私も負けていられないですね」

「えっ?」

「突然のことでまだ実感がわかないけれど……少しずつでもいいので、空白の時間を埋められたらいいなと思います。もし君が私を父親として受け入れてくれるのであれば、の話だけれど……」


 お父さんは優しく微笑むと、さゆりさんの手にその手を重ねた。さゆりさんの手を包み込むその手はしわだらけで、でも、とっても大きい。


「もちろんです、お父さん。少しずつ、家族になっていきましょう」


 さゆりさんは、もう片方の手を、お父さんの手の上に重ねた。彼女の瞳には、うっすらと涙がたまっている。あたたかくて切ない、家族を想う涙。思わず俺も、もらい泣きしてしまいそうだ。



「冬馬くん、泣いているんですか?」

「いや、なんか、感動しちゃって」

「ありがとう、私たちのために泣いてくれて。そして、ずっと見守っていてくれて」

「そんなの、お安いご用ですよ! 俺、顔拭いてきますね」


 俺は休憩室に行き、エプロンをはずしてカバンを手に取った。もう、二人きりになっても大丈夫だと思ったからだ。今すぐには難しいだろうけど、少しずつ二人が家族になれますように。

 いろんな話をして、空白の時間を埋められますように。


 心のなかで願い事をしながら、休憩室の扉をあけた。

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