2.いじめっ子といじめられっ子~ダンディおじさんと少女4~
「……昨日、クラスの友達に“明日家においでよ”って誘ってもらったの。それで、約束の時間に行ったら“あんたなんか呼んでない、帰って”って言われちゃった。その子の家には他の友達も何人か集まっていて、みんなで私のことを笑ってたの」
「ええ、ひどいですね。あいちゃんは呼ばれたから行っただけなのに」
「ひどいことされたのは、今回が初めてじゃないんだ。夏休みに入る前くらいから、学校で意地悪されるようになった。いつも一緒に遊んでいたのに、無視されたり、聞こえるように悪口を言われるようになって……」
ここにいる誰もが、“いじめ”という三文字を思い浮かべただろう。今朝話題に出ていたせいか他人事には思えなかった。でも、どうして、あいちゃんのような普通の女の子がいじめの対象にあうのだろう。そして、いったいどんな子が彼女をいじめてるのだろうか。想像もつかない。
さゆりさんは手を伸ばして、あいちゃんの頭を優しく撫でた。
「辛かったでしょう。一人でよく耐えましたね」
「……うん、辛かった。でも、誰にも相談できなかったの」
再びあいちゃんの目に涙がたまっていく。きれいな涙が頬を伝う様子を見て、胸がえぐれるように辛くなった。
「一つ不思議に思ったんですけど、あいちゃんに意地悪した子のご両親は、注意しなかったのでしょうか? 学校でのことはわからなくても、今日の出来事は家にいたら気がついたと思うのですが……」
「その子の家は一階にお店があって、二階にお家があるの。おじさんとおばさんは、いつも店にいるから気づかなかったと思う」
「お店、ですか……」
石川さんが神妙な顔をして呟く。お店というワードに引っかかったのだろう。さゆりさんも、さらに重い表情をしていた。
「そのお店っていうのは、何を売っている店なんですか?」
さゆりさんの踏み込んだ質問に、あいちゃんはまた黙り込んでしまった。答えてしまったら、いじめている子の正体がわかってしまうと思ったのだろう。
「それは……いえないよ」案の定、あいちゃんは答えようとしない。
「大丈夫、ここにいる人たちはみんな、あいちゃんの味方ですよ。だから安心して、全部話してみて?」
あいちゃんは、店内を一周ぐるっと見渡した。石川さんは笑顔で頷き、鈴木のおっさんは「ワシらが力になるぞ」と力強く話し、溝口さんは「大丈夫だよ」と励ます。もちろん俺も、みんなに同調するようにうなずいた。
「…………その子の家は、八百屋さんなの」
「この商店街にある八百屋さんですか?」
「うん」
商店街にある八百屋は、何度かお使いで利用したことがある。恰幅がよくていつも元気なおばちゃんがいたけど、あの人の娘があいちゃんをいじめているのだろうか。
「……そうでしたか。その八百屋の子とは、何かトラブルがあったのですか?」
「ううん、一度もケンカしたことないよ。あいに悪いところがあれば直すのに……」
「自分を責めないで。あいちゃんは何も悪くありません。どんな事情があったって、意地悪をする方がいけないんですよ」
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