153.修行の成果

 四人が戦い終わったので、ついでに俺もオーガ相手に修行の成果を試すことにした。俺が習ったのは六陽掌と棒法。


 六陽掌は無手の掌法。攻めというより受けの技って感じだ。俺には合っている。だけど、これに氣が加わると凶悪な技となる。というか、氣を使うことを主とした掌法のようだ。


 棒法は護身術っぽい。警察官が使う逮捕術はこの棒法から発生したといわれている。まあ、棒を使うので殺傷力は氣を使わない限り皆無。代わりに相手を殺さず制圧できる。


 大剣持ちのオーガと対峙。


 俺は風師匠から習得祝いに頂いた打己棒を構える。打己棒、己の傲慢な心を打つ棒らしい。美術品のように綺麗に磨かれた竹の棒だ。


 そんな打己棒、所詮は竹の棒。どんなに氣を纏わせてもまともに受けたら木端微塵だと思う。大剣を受けるのではなく狙うのは手や足の関節。受け流す場合も刃の部分ではなく剣の腹を滑らせる。


 オーガの大剣に動きに逆らわず、大剣に纏わりつく布の如く動き打己棒で攻撃。頑丈なオーガといえど関節は人と同じ。足の関節を叩き片膝を付かせ、今度は打己棒を使って腕の関節を決めて転がす。合気道に通づるものがある。


 転んだオーガの大剣を奪いオーガの胸に突き刺せばオーガの大剣が残る。簡単なお仕事です。


 二体目は六陽掌で相手をする。まさに武侠映画そのものの動き。風師匠には転がされていたけど、オーガ相手にはイメージどおりの動きができている。最初は氣を使わず戦い動きの確認。後半は氣を使っての反撃。


 しかし、この六陽掌はえげつない。陽の氣を使って攻撃する技なのだが、オーガの攻撃してくる手を掌底で受け、そのまま氣を使い掌打。


 オーガの腕を弾き返し、そのうえオーガの掌が掌打を受けた反対側から内部破裂。肩から骨が露わになって武器を落とす。武器を拾って止めを刺す。


「六陽掌。凄い技だな……」


「逍遥派の奥義だけはある」


「さすがに、俺たちには教えてはくれないだろうな」


「あのじじい、いったいいくつの秘技を会得してるんだ?」


 何度かオーガと戦っていると、棒法と六陽掌を組み合わせるととても使い勝手のいいことがわかってきた。棒法で相手をけん制して、六陽掌でのカウンター狙いでの内部破壊。


 刀の一撃必殺とは真逆の戦い方だ。だからこそ、風師匠は俺にこの技を教えたのだろう。


「いやらしい戦い方だな」


「軽功を鍛えればさらに使い勝手がよくなるな」


「完全な受けの技だ」


「俺には合わないな」


 オーガでは物足りないということで地下五階層に下りてきた。アント系が出て来て、上位種のリーダーアントは酸を吐くことも教える。


 通路で遭遇してワーカーアントを広い場所まで誘導してくる。動きの制限がなくなったワーカーアントは俺や沙羅には厄介な相手だが、ジミーたちには格下。わざと上位種を呼ばせる余裕がある。


 リーダーアントの酸攻撃も、氣ののった直剣で巻き取るような動きで相手に返す余裕。あんなやり方があるなんて……ってできるか! そんなこと! 完全に水を操っているよね? それ。


「慣れだな」


「桶に水を入れて練習したもんだ」


「最初は失敗してずぶ濡れになったな」


「これができるようになると、暗器も返せるようになるぞ」


 今の俺には無理。でも、練習はしようかな? 今後の課題だな。


 俺は武器を持たずに戦う。武器を持っていないとワーカーアントたちは積極的に俺に噛みつこうとしてくる。そこを躱して頭に六陽掌を放つ。アントの顔から、本来は出てはいけないものがドロドロと流れ出して動かなくなる。


 アントの外皮は頑丈なので破壊されず、内部だけ破壊されたようだ。六陽掌……エグいな。外皮の丈夫なモンスターにはとても有効な技だ。


 でも、本当は刀で戦えるようにならないと駄目なんだよねぇ。



「面白いな」


「ゲームみたいで楽しいぞ」


「うちらの異界アンダーワールドにも迷宮欲しい!」


「なあ、モンスターを倒した後、すぐに消えたがあれはアキの仕業か?」


「倒した後、自然に消える前に収納すると、消えずに残るんだ」


「にゃ~」


 みんな驚いている。ついでだからクレストの町のレイダーギルドに連れて行く。


「ここは?」


「レイダーギルドっていって、倒したモンスターや剥ぎ取った素材を買い取ってくれる所」


 満タンになったジミーたちの魂石を預かりカウンターに行き、防具素材集めの依頼の納品と魂石の換金をしてもらう。


 四人に大金貨十枚ずつ渡す。


「これは?」


「魂石の換金と素材を売ったお金」


「これでいくらなんだ?」


「日本円で百万円くらいかな」


「「「「百万!?」」」」


 大金貨十枚のうち五枚は魂石の換金代と教えると驚く。


「本当に高く買い取ってくれるんだな」


「普通の五倍だぞ?」


「今までの苦労が……」


「国は騙されすぎだろう!」


「にゃ~」


 今、国とその話をしていることも教える。上手くいけば日本が仲介して、ほかの国の魂石も適正価格で取引されるようになるかもしれない。


「新人探究者シーカーは助かるだろうな」


「でかい外交カードになりそうだな」


「青丐幇がアキを狙うのも納得だ」


「独占できたらと思ったんだろう」


 どういう意図があったかはわからないけど、日本のお馬鹿な政治家が洩らしたせいでね。


 本当に迷惑極まりない。




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