91.天水家と食事

 用意された下着は新品のもの。そういえば、お兄さんがいるって言ってたな。その下着だろう。あとは浴衣が用意されている。俺の服はどうなった? まさか洗濯されてるとか? 帰るまで乾いているのか?


 風呂場を出るとお手伝いさんに会い、和室のダイニングルームに案内された。


「お風呂頂きました。いいお湯で……した」


 二十畳ほどの和室に八人は座れる大きな座卓。


 そこの上座に厳つい顔のご年配の男性が小太郎を抱いている。その斜め横が一つ空き、その横にこれまたきっりとしたダンディーな男性がマーブルをモフっている。その横には刈り上げのイケメン男子。反対には沙羅と紗耶香さんに沙羅の母が座り、上座の真反対の下座に沙羅の祖母。この状況はなんだ? 

 

 どうしていいかわからず固まっていると、


「ここに座りなさい」


 空いている席を目線で指す。ですよねー。そこしか空いてないですから。


 正直、びびりながらおずおずと席の座布団に正座する。


「足を崩して構わないよ」


 横に座るダンディーさんが優しく声をかけてくれた。よく見れば各々ラフなスタイルで座っている。えぇーい、ままよ! お言葉に甘えて胡坐を組む。浴衣なのでトランクスが見えないように注意してな。


「君のことは聞いているよ。同じ大学に通い、一緒に異界に潜っているそうだね」


「はい。十六夜聖臣といいます。お嬢さんと同じ大学で新人研修会でも一緒だったことから、一緒に探究者をやらさせていただいています」


 隣のダンディーさんは沙羅の父だろう。そして上座にいるのが祖父だろうな。


「うむ。そう……」


 その天水祖父が俺に話しかけようとした時、天水祖母から横槍が入る。


「あなた。まずはお食事を始めませんか? マーブルちゃんも小太郎ちゃんもお腹が空いてますよ」


「おぉ、そうだったな。お腹空いたでちゅか~小太郎ちゃん」


「にゃ~」


 お、おぅ……なんだこのギャップは。


「そうかそうか。では、いただきます」


「「「「「「「いただきます」」」」」」」



「いつも娘が世話になっているね、新人研修会では体を張って娘を助けてくれたとか。一緒にいた紗耶香は何をしていたんだか」


 そういいながら、グラスにビールを注いできたダンディーさん。なので、ありがたく頂く。うまい! 風呂上りだけに最高だ。もちろん沙羅のダンディーさん……もとい、お父さん、祖父、お兄さんにも注いで回る。女性陣は飲まないそうだ。今日は……。


「お父様。そうは言いますが、この猪娘が勝手に飛び出したことが問題だと思います」


「い、猪娘じゃないもん!」


「沙羅は反省しなさい。紗耶香、それは結果論で、事前に言い聞かせていないお前の落ち度だと言っているのだよ」


「……申し訳ございません」


「まあまあ、お父さんもお客人がいるのだから小言はそれくらいに。あの武神馬鹿の沙羅がボーイフレンドを家に連れて来たんです。これでちゃんと女と証明したわけですし」

 

「う、生まれたときから女だもん!」


 沙羅……凄い言われよう。お兄さんもなかなかの毒舌。


 その一方、沙羅の祖父は小太郎にメロメロ、祖父の威厳なんてあったものじゃない。本当に猫嫌いの人だったのだろうかというほどの猫可愛がり。お刺身を小さく切り分け小太郎に食べさせている姿は、孫の世話をするおじいちゃんだ。


 小太郎もそんな沙羅の祖父に、完璧な子猫の愛嬌を振りまいている。やるな、小太郎。


 それとは反対に、マーブルはみんなの所を行ったり来たりしてご飯のおねだり。ケット・シーとしてのプライドはないのか! いや、完全に捨ててるな。


 そんな中、沙羅のお兄さんが(忠道さんと言う。)


「沙羅と聖臣くんは特室でいろいろやらかしたそうじゃないか。貴子様から苦情の電話があったよ」


 苦情とは失礼な。特室どころか日本の国益に貢献しようとしてるのに。


「お兄様。それは違います。私たちは新たなる隣人との橋渡しをしようとしただけです」


 そうだそうだ。もっと言ってやれ! って言ったら駄目なのか……。


「ほう。新たなる隣人か? 私も聞いてみたいな。沙羅」


「お父様でもまだ話せません」


「話しても問題ない。貴子様から許可はもらったよ」


「ほう。私も聞きたいな」


「おじい様まで…」


 機密保持はいいのか? 危機管理はどこいった? 沙羅が渋々話し出す。


「あらあら、じゃあ沙羅ちゃんは異世界人に会ったのね?」


「どんな感じでした? 沙羅さん」


「可愛い? 感じかな?」


「にゃー」


「あらあら、可愛らしいなら、お母さんもあってみたいわ」


 もう、会ってますよ。お刺身をおねだりしている、その食い意地の張った猫がそうですよ。



「ポーションというのが気になるわね」


「やはり、装備品だろう。我々が使う物とどのくらい性能が違うのか知りたいな」


「そんなものは些細なことだ、一番は資源や技術のことだ」


「何を言っとる。大事なのは外交と防衛だ。異世界人がすべて善良とは限らない」


 三者三様。俺が今危惧しているのは、今更ながら防疫はどうなっているのだろう? ということ。未知のウイルスなどないのだろうか? もしかしたら、ポーションでなんとかなるのかも?


「お見せしましょうか?」


「持ってるのかね?」


「私物でよかったら」


「へぇ。私物ねぇ」


 なんですか? 忠道さん。獲物を狙う猛禽類の目してますよ。


「小太郎」


「にゃ~」


 部屋の空いてる場所に、小太郎の自由空間にある物を出してもらう。マーブルはお腹いっぱいになったのか、沙羅の祖母の膝の上で丸くなって寝ている。


「「なに!?」」


「収納系の技能スキルか!?」


「今のはコタちゃんなの?」


 みなが驚くなか、なぜか沙羅がドヤ顔で小太郎の頭を撫でる。


 小太郎は俺のマギだって忘れてません?








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