第21話 金星の秘儀を授けられたフィガロ

 神聖レムリア王国は円形の都市として機能しており、初代レムリア聖皇、法皇アンデの公務執行中央機関にあたるレムリア聖皇庁が中心にあり、地星入植後、新たにレムリア十二支族となった元リラ十二支族の子孫を代表する十二の聖首長が、中心部の外側を円に沿って十二に分割した衛星都市をそれぞれ治めていた。ルビヤ族は北東(丑寅)にある省庁、居住部を管轄していた。聖首長ルビヤ、副首長ユリスは遺伝子の契約を結んだ地星人類の養育を任されていた為に、ルビヤ族の第三位に連なる人員が、聖首長ルビヤの代理人として、十二評議会への出席、担当聖庁の執政を行っていた。

 リラ十二支族直系の子孫は、太陽系の生命の起源に関わってきた。地星の他に火星や木星の第二衛星エウロパや土星の第六衛星タイタンを調査し、その結果、水の星の地星テラが最も生命に適した環境にあると判断した。

 プレアデスから飛来してきた宇宙船団は、火星に大量着陸し、太陽系国家マルスを興し、シリウス連星系の宇宙船団も同じように、金星に愛に象徴されるウェヌス文明を興し、リラ・ベガ直系の創造主王家のテラ計劃を支援した。

 後に二つの派閥は、海中に大陸ごと没することになる、超科学文明のアトランティスと、精神文明のムーをテラに興した。

 度々、人類の前に現れる金星の女神たちは、ウェヌス、ヴィーナス、またはアフロディーテと呼ばれるようになり、金星円盤協会、魔女共同体「夢の聖母姉妹」を通じ、シリウスの霊統を継ぐ者たちに宇宙文明の秘儀を授けた。その一つに反重力の契約があった。

 深夜のオゾン大公邸内を、大公妃メーイェを暗殺するために、爆弾が仕掛けられた床の上を滑るようにして移動していったフィガロ、神の王、偽ジュリアン・サロートのはるか上空、成層圏に滞空する、金色に光り輝く円盤の中に金星の女神たちはいた。

 余談だが、ウェヌスとマルスは恋人同士とされていたが、この二神の恋は不倫の間柄で、ウェヌスには元々鍛冶神ウルカヌスという夫がいたのだ、と詩人は語った。愛の女神ウェヌスが軍神マルスを惹き付けている間だけ、マルスは戦争をするのを忘れることができたのだという。


 地星の自然環境のバランスを取るために、地星の衛星にすべく太陽系の外にあった月を操縦して運んできた。月が地星に対し、いつも同じ面が見えるように円軌道を調整した。内部が空洞で重心と磁場のない月は、人工的に惑星を改造した超巨大宇宙母船だった。ルビヤやアンデ、リラ・ベガの子孫たちは、月の船に乗って、永い大航海時代を経て、未開の太陽系を発見した。宇宙母船を月に擬態した理由は、シリウス=プレアデスの闘争に巻き込まれないためでもあったが、どの道、新しい惑星で文明を開くには、自然環境を調整するための衛星は必要不可欠だった。

 地星の海に放流された一つの剥き出しのDNA分子からなる、単細胞の原生生物から段階的に生物を進化させて、最後に原始人類を創造した。原始人類は人間というよりは動物に近く、生命維持本能や生殖本能を有してはいたが、ごく稀に生命維持本能より知性が発達したグループがいた。生命を脅かす恐怖心よりも、真実への探求本能を優先し、太陽や月を目指して流離う集団だった。ただ他のグループに比べ短命で、すぐに絶滅してしまった。

 何万年もの試行錯誤を繰り返して、原始人類からメアイとメーイェは神の子に選ばれた。宇宙の縮図である神性の遺伝子を天使から与えられ、銀河人類言語を人間の口で翻訳した言葉を覚えていった。二人の神の子は神々にとって愛の結実であり、最高傑作だった。宇宙本源の愛の軌道に乗る可能性が開くことは同時に、神の軌道から外れて堕落してしまう可能性もあるということだった。そんな神の子たちが堕落したことを、ルビヤ夫妻は周りの天使たちには隠して、二人をアンデの葬儀に連れて行こうとしていた。

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