第36話 やがて王冠が彼の頭を覆い
メサエスは爆弾に憎しみを込めたら、その憎しみのために爆弾は威力を増していくのかもしれないと思い、反対に爆弾が憐憫と慈愛の心を持ち、爆発するのを思い留まってくれればと、あてどない祈りを込めて作った。祈りだけでは足りない。自分の右目を抉り取り、爆弾の中に埋め込んだ。それは石の欠片を合わせて、中に火薬を詰め込む爆弾で、後で魔法工課に運ばれて時の魔法をかけられた。
「爆弾に意思があって、爆発を思い留まる? そんなことが本当にあればいいのにな」
右目に眼帯を付けたメサエスは、それだけでは気が晴れず、作った爆弾の何個かを袋に隠して、下水道から流した。爆弾を盗むことを繰り返せば、何人かはほんの少しだが永く生きることができる、メサエスは自分の心の中に立ち現れ、実行したことをドラクロワに告白した。
いつか窃盗が監視兵にばれて、メサエスは盗人として囚われた。今も爆弾は爆発することなく、下水道から流れた先の湖の底に留まっている。
「ジュリアン・サロート。お前の生き方は正しいよ。お前がそれを正しいと思って、やっているのなら、その心が神の王の魂の芽生えとなるのだろう。お前の罪過は消えた」
ドラクロワは言った後、その未来に立ちはだかる悪魔の石像の姿を思い浮かべた。
ドラクロワは「……本当は希望に見えるだけで、未来は槍によって串刺しにされていて、予言のふりをした、ただの呪いなのかもしれない。神に勝利した悪魔が観客として見ている悪夢の舞台に俺たちは立たされているだけなのでは……」と苦しみながら言った。
「俺の占い師としての仕事は終わった。何の役にも立たなかった。俺は愚か者だった。せめて俺にできることは、未来のお前の前に俺が現れないように、ここで食い止めるだけだ。二度とお前を殺さないように、ただの石像になればいいのだろうか。俺を元の通り、動かない石にしてくれ、ジュリアン・サロート。俺はそのとき死ぬのだろうか? プーが待っている。あいつはきっと俺を待っているだろう。寂しいことはない。プーと同じ場所へ辿り着けなかったら、寂しさのあまり、こんな俺でも涙を流すだろうか。さようなら、神の王」
ムカデはドラクロワの体中の表面を這い回り、最後に口の中から出てきて、何事もなかったかのように、闇が煮詰まった壁への行進を再開した。
「ドラクロワ……」
こんな俺でも涙を流すだろうか、だって? そんなこと、どうでもいいことじゃないか。涙が分泌されない石の体のために、生涯一度も涙を流せなかったドラクロワのかわりに、メサエス・オゾンは泣いた。
朝が来たのか、ドラクロワは地下牢から連れ去られた。石像は本来の姿に戻ったのか、意識も体の動きも完全に石化し、芸術品として持ち去られた。昨日の夜の出来事は夢なのではないかとメサエスは思った。人の気配が遠のくと、どこかから爆弾が爆発する音が鳴り響いた。メサエスは自分の作った爆弾であの石像が命を落としたのだと思い至った。
ドラクロワの言い残したことを頭に思い浮かべると、石像の予言がメサエス・オゾンの額に刻まれ、やがて王冠が彼の頭を覆い苦痛に体を横たえた。苦しみの波が押し寄せ、右半身を苦しみで濡らし、ジュリアン・サロートは生まれた。王冠にはいばらがひしめき、額の上でダリアの花が咲いた。予言は成就された。
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