第6話 彼らが信じたいと思うような嘘を

 ドラクロワの物語の延長線上の未来に、今もラヴディーンが待っている。

 マリアレス・ストーカーがドラクロワの子を妊娠していることを事前に占ったのは、ドラクロワと共に硝子の塔に一緒に通った流血占い師のプーだった。

「占ったのなら、早く言え。運命を避けることもできただろう。それでは占いの意味がないぞ」

 ドラクロワはプーを激しく叱咤した。プーには並外れた天才的な占いの才能があったが、それを人に提示することに極度に恐れを抱いていた。族長に次ぐ地位を持つブンボローゾヴィッチはそれでは占い師としての生業をまっとうすることはできぬと、プーの未来に危惧したが、やはり占い族の誰もプー自身の未来を占うことはできなかった。

 プーが恐れを抱くには原因があった。

 プーは以前、ドラクロワに悩みを打ち明けたことがあった。

「占い師を頼りながら、結果を信じようとしないものがいる。彼らはみな、与えられた未来の運命を信じたくはないんだ。すでに決まっていることに我慢がならないんだ。では何のために占われたのだ、と僕は問うた。こんなはずではない、俺の未来は、と言うものや、お前は無能だと言って、怒って出ていった客もいた。僕は相手が僕の占いを信じるかどうかという段階から、腕を切って占わなくてはならなくなる。都合のいいことしか信じない者を占ったりせずに済ますためにだ。それはひどく手間がかかる。彼らの中には占いを恐れて、何とか自分の運命を避ける方法を探そうとする。でも僕に占われた時点で、それはもう決定的に避けられなくなる。占われる前なら、あるいは、力の弱い占い師が占ったなら何とかなったかもしれない。僕は二度と消えない文字で、その者の運命を書いている。ジャッカルに咬まれたときにできる一生消えることのない傷のような文字で。そして、そのようになる。僕はいつもそのことで自分を無慈悲だと感じてしまう。だから本当は占い師には向いてないのかもしれない。彼らが信じたいと思うような嘘をついてやればよいのだろうか? 占い師にはそのような舌先の技術も必要なのだろうか? 僕はもう人を占いたくはない」


 プーの恐れは現実のものとなった。

 ある日、プーの父親のブザーは占いの仕事で、大公邸に呼ばれることになった。占い族の村から北西に向かって草原にできた道を歩き、宿場町シアスンまで伸びる南太陽街道に入って東北に向かうと、外壁に囲まれたオーゾレムの都が北に見えてくる。都の北関を出て、北太陽街道を更に北に向かうと、オゾン神話の聖地メーイェ湖や、その湖岸にメーイェ神殿や、棺桶職人たちの集落があった。オーゾレムの東部は港湾地区になっているため、東太陽街道は存在しない。貿易商や船乗りや造船業者や奴隷商人や役人たちの認識では、海路は東太陽街道に等しかった。また海の道ウィア・マリスと呼称されることもあった。

 オゾン大公国。王を戴くことのない大公国は、未来に現れる王を戴いている。オゾン大公とその妻は、未来の王の代理として国の政を治めていた。

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