第3話 親は二度と自分の子供だと判別できない
その完成された夢の村か、まぼろしの村か現実の村かは分からないが、占い族の村の背後、南東側には深い森が広がり、そのどこかに森によって匿われた川が流れていた。
占い師たちは、森の木を切り、家を作っていった。そのようにして、家が一つ一つ作られていった。森については逸話があり、こういうことがあった。
ある日、木を切り倒していた壷割り占い師の手伝いをしていた息子が、父からはぐれたのか、森の奥に踏み込んだまま、なかなか帰ってこないことがあった。父親の壷割り占い師は、占いで息子の行方を占ってみた。地面に叩きつけて割った壷のかけらの大きさや離れ具合から森を占ってみると、子どもが見つからないかわりに、深遠な森のどこかに、木の枝から逆さに吊るされている女がいるのが見えた。壷割り占い師とブンボローゾヴィッチは、子供を捜しに、森の深くに踏み込んでいった。ある者は二人を呼び止め、逆さまの女が呪いをかけるかもしれない、と忠告した。
心配するな、俺の占いでは何事もなく、見つかるようになっている。ブンボローゾヴィッチは請け合った。日没の前に、子どもは無事に見つかり、親子は抱き合った。
用心していた逆さまの女はどこにもいなかった。
大人たちは、子どもたちが森の中に深く入り込まないように、逆さまの女の御伽噺を作った。
「逆さまの魔女に呪いをかけられて、良い子でも悪魔ルビヤにされちゃうぞ、悪魔ルビヤにされてしまったら、親は二度と自分の子供だと判別できないぞ、逆さまの呪いをかけられたら、一生、逆立ちしながら歩いて生活して、足で食事を取らなくてはならなくなる」とか何とか。大公国に出没する盗賊団の子どもさらいに対しては、「夜中に家の外を歩き回っては駄目だよ。牛の頭をした悪魔ルビヤにさらわれて、目玉を刳り貫かれて、何も見えなくなるよ。冥界から帰ってこられなくなるよ」と。
子どもたちは親との約束を守って、森の中に入らなかったし、夜中に家から一歩も出なかった。
占い師たちは、何故自分が占いの村にいなくてはならないのか、一人として分かる者はいなかった。誰も答えを知る者はいなかった。初めにこの地に辿り着いたブンボローゾヴィッチも、自分の占いの正しさをただ純朴に信じていた。初めから答えが決められてないものに答えを求めることはできない、と彼らのうちの何人かが言った。
多くの占い師が、読むことのできない不可視の謎、何故この地に訪れ、村を造らなければならないのかという疑問に答えを見出せないことに恐れを抱いたが、彼らの占いの中心には、希望があった。ドラクロワ。不思議な石の赤子が彼らの運命を護ってくれているのだと、誰もが信じて疑わなかった。村の守護神。聖なる石の子。占いの神の寵愛を受けし子。
占い師たちは近くのオゾン大公国の権力の中枢オーゾレムの都に占いの仕事をしに出かけ、聞き伝えでオゾン大公国の街の者は、自らの運命を聞きに占い族の村を訪れた。そのようにして一族は生活の糧を得ていた。
けれども、占い族の村は破滅する運命にあった。
村の破滅について、占おうとする占い師はいなかった。
ここからは彼らの横顔が見える。彼らは怯えて何も語ろうとはしない。あと一言何かを言及しようとすれば、彼らは消えてしまいそうだ。破滅を知る者もいないまま、村は、覆いかぶされたもう一つの村の亡霊に、占い師を必要としない神のみぞ知る占いによって、砂の村のように崩されることになる。占い師たちが読むことを拒否した以上、未来の誰かのまなざしのみが、救済とは関わりを持たない場所から、すべてを見るだろう。
「石が花に向かって投げられたとき、その石を事前に払い落とすことができなければ、族長はすべての責を負わされ、物言わぬ石になり、村人は一人残らず死ぬことになるだろう」
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