武器って大事だと思いませんか?

 ヒイラとの話し合いが終わった一葉は、そのまま近くの街へ…行く前に自室へと戻って来ていた。


「イチヨウ様〜、ぼーけんしゃになりに行かなくて良いんですか?」

「今の武器はレベル制限があっただろ?それに、僕はこの格好で歩きたくはない」


 禍々しいの一言に尽きる自身の装備を見ながら、一葉はそう言った。

 一葉はアイテムストレージの中から神聖さを感じる弓や、巨大な長弓、禍々しいオーラを放つ弓などを取り出していく。

 アルムは、全て手に取って試してみるが、ステータスの制限で矢を生成するMPが足りなかったり、STRが足りなかったりでまともに使えるものは無いようだった。


「お?これは…」


 そう言って、一葉が取り出したのはファンタジー感ぶち壊しのメカメカしい弓だった。名前は『機械弓・アーズィカフ』というものだった。

 その本体は軽く、また内蔵されているマナタンクと呼ばれる部品に周囲から抽出したMPを貯めておけるため、使用者のMP消費は少なく済むという優れものだ。


「アルム」

「あ、はいなんでしょうイチヨウ様。とりあえず、この弓解呪してくれませんか?だんだん腕の感覚が無くなってきたのですが…」


 一葉は、魔導書から解呪の術が込められた用紙を引っ張り出すと、アルムの腕に用紙と一緒に弓を乗せる。

 呪いが解けたアルムの手から禍々しいオーラを放つ弓が零れ落ち、不気味な笑い声を鳴らしながら灰になって消えた。

 アルムはというと、渡された機械弓を手に持って驚いていた。


「すごく軽い…。これなら」


 スッとアルムが弦を弾くと、弦に薄緑色の光る矢が形成される。

 アルムが矢を放つと、机の上に置いてあった赤べこに命中し、赤べこが宙を舞う。そこに、アルムが連続で放った2撃目、3撃目が見事に命中する。


「イチヨウ様!この弓すごいですよ!軽いし、消費魔力も少ないし、狙いやすいです!」

「おお、それは良かった。でも、部屋の中でぶっ放すのは止めようか」


 テンションが上がりすぎたせいか、耳をぴこぴこと動かしながら言うアルムに冷静なツッコミを入れると、一葉自身も装備を変えていく。

 地味な色をした革の装備一式に焦げ茶色の外套を羽織り、フレイに買ってもらった鋼製の投げナイフを数本外套の裏に隠す。腰にはこれまたフレイに購入させた神鉄製のメイスを帯びれば、武器に力を入れすぎた冒険者の様に見えなくもないはずだ。


「うーむ、それにしても…」


 一葉は、趣味の悪い鏡の前に立つと自身の顔に触れる。そこには、本来の一葉の顔は無く、ゲームのキャラメイキングで作った赤髪の白目が黒く染まり、赤い瞳から微かな発光を見せる青年の顔があった。


「うん、流石に目は隠そう。これはダメだわ」


 街中でこんないかにもな目をした人間がいれば、魔王だとあらぬ疑いをかけられ間違いなく即通報からの討伐対象待った無しである。まあ実際のところ、魔王であるため間違いではないのだが。


「何かあったかな…」


 アイテムボックスの中にある装備品や衣装などを取り出していると、中から傷メイクの衣装が出てきた。

 選択して取り出すと、カプセルの様なものが掌の上に現れ、発光する。

 次の瞬間、一葉の右目は縦に垂直な傷跡が入り、目が開いていない見た目へと変化した。


「なるほど、視界は塞がらないのか。便利だな」


 しかし、まだ問題はある。左目である、左目は未だに全力で人外要素を主張しているのだ。


「あの、イチヨウ様。これなんてどうでしょう?」


 そう言ってアルムが差し出したのは上品さを感じさせる片眼鏡だった。


「なるほど【萎縮の片眼鏡】か。確かにそれは丁度いい」


 そう言って一葉は、アルムから片眼鏡を受け取る。【萎縮の片眼鏡】それは、装備することで装備者に一時的に【萎縮の魔眼】と呼ばれるスキルを与える事のできる装備である。

 効果時間は2秒と短いが、CTの短さなどによって使用しているプレイヤーもそれなりに多い装備だった。

 そして、何より今回は魔眼を得ることによって変化する目の色、それが重要なのである。

 一葉が片眼鏡を装備すると、途端に一葉の左目は真っ白に変色し、その瞳を形作る様に幾何学的な模様が描かれ、最後に薄紫色に着色される。


  ☆


「これで完璧かな」

「そうですね。それじゃ、行きましょう!」


 一葉は元気いっぱいに歩き出したアルムの少し後ろを歩いて行くと、後ろを振り返る。

 骸骨の兵士と、ゴルザ、そしてヒイラが一葉達をを見送ってくれていた。


「いってきます」


 誰に言うでもなく一葉はそう呟くと、くるりとまた前を向いて歩き出した。

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