国盗勇者

 その後、城に戻るとレイクは報告の為に一葉達と別れた。

 生徒達は各々の部屋に帰ることなく、談笑スペースに皆集まっていた。

 しかし、その表情は一様に暗かった。

 当然だろう、異世界召喚なんていうファンタジーに浮かれていて忘れていた、いや、考えない様にしていたのだ。

 自分達が死ぬかもしれない、そんな当たり前の可能性から誰もが目を逸らしていた。

 だが、今回の2人の死によって最早無視することは出来ないものとなった。

 それ故に生徒達は思った。

 『もう戦いたくない』と。

 そんな生徒達を見た雄二は立ち上がると、そのまま部屋を出て行く。


  ☆


「まったく!貴様が付いていながら勇者を2人も失うなど!どう責任を取るつもりだ!レイク=エンフォルド!」


 全身の肉をブルリと震わせながら国王、ノア=B=ユグナイト。


「申し訳ありません、王よ。しかし、変異種が現れたのです。こればかりは、仕方ありませぬ…」

「言い訳をするでないわ!」


 ユグナイト国王がそう叫んだ瞬間、玉座の扉が派手な音を立てて開かれる。

 玉座の間にいた全ての人間が視線を向ければ、そこには手をポケットに突っ込み、俯向うつむく雄二の姿があった。


「ユウジか、何をしに来た!貴様は早く勇者共が使い物になるように鼓舞してこい!」


 ユグナイト国王がそう叫ぶと、雄二を赤いオーラが包む。

 格闘スキル【武神闘気】、自身の全ステータスを3倍に引き上げるスキルである。

 すると、雄二の姿が掻き消え、代わりに玉座の間にヒキガエルが絞められているかのような声が響く。

 その場の誰もが、信じられないものを見たというように目を見開く。

 そこには_


「うるせえ、ぶち殺すぞ豚が」


 鬼の形相を浮かべ、ユグナイト国王を片手で軽々と吊るし上げる雄二の姿があった。

 雄二はユグナイト国王を放すと、ユグナイト国王は重力に従い落下。

 その贅肉まみれの尻を強打する。

 そんな状況にもかかわらずユグナイト国王は、憎しみを込めた目で雄二を指差す。


「きっ…!きひゃまっ!こんなことが許されるとでも_」


 パキリ、そんな軽い音がしてユグナイト国王の人差し指が反り返る。

 数瞬遅れて、絶叫。

 そんなユグナイト国王の姿を、雄二はゴミでも見るような目で見るとユグナイト国王の髪の毛を掴む。


「黙れ、次勝手に喋ったら残りの指も同じように折っていく。わかったか?」

「ワシに命令など…ギャア!」

「喋んなっつっただろ?話聞けよ」


 そう言うと雄二は玉座に腰を下ろすと地面にうずくまるユグナイト国王の背中の上で足を組む。


「単刀直入に用件を伝えるぞ、俺達を元の世界へ帰せ」


 生徒達の身を案じた雄二の出した答えはコレだった。

 雄二は、ダメ人間のようでありながら、その実しっかりとした大人である。

 今までは、生徒達もやる気だったので、止めずに見守っていたが、これ以上は無理だと判断し、初めは話し合いで解決しようと思っていた。

 しかし、ユグナイト国王の生徒達をまるで人と思っていないかのような発言に、雄二は我慢できなかった。

 そんな雄二に痛めつけられたユグナイト国王は、ただひたすらに呻き声を上げることしか出来ないのであった。


「おい、で、どうやったら帰れんの?」

「…」

だんまりか。それなら仕方ないよな」


 雄二は玉座から立ち上がると、ユグナイト国王の右のアキレス腱の辺りに脚術スキル【断脚】を発動し、ユグナイト国王のアキレス腱を切り裂く。


「ッあぁあああああああ!なぜだ!なぜだぁあああ!」

「答えろよ、次答えなかったら首を落とす」

「くっ…!レイク!ワシを助けよ!これは王命じゃ!」


 必死に助けを求められたレイクは_


「残念ですが王よ、それは出来ません。私の主は最早あなたではありませぬ、真の主、それはこのイト・ユウジ様でございます」

「だ、そうだ。どうする?お前の仲間はいないぜ?」

「こ、このっ!裏切り者共め!」


 そう言って憤慨する国王を、雄二は冷めた目で見下す。


「もういいよ、それじゃあな元国王様」

「ま、待て!ワシが国王でないというなら誰が次代の国王となるのだ!」


 そう、このユグナイト王国には後継者がいない、その理由として国王が未だ若く健在であるためだと言われているが、その実、その醜悪な容姿の所為で妃として迎えようとした女性が自殺してしまうのが原因なのだが。

 そんな訳で現在、ユグナイト王国は現国王で血筋が絶えてしまいかねない状況なのである。

 だが、雄二はそんな国王に対して衝撃発言を放つ。


「ああ、そこに関しては問題ない、次期国王はこの俺だからな。どうやら、アンタ遊んでばっかりで政治をやってなかったんだろ?それなら誰にでも務まるだろ」

「なっ…!そんな横暴が許されるものか!周辺国家が黙っておらんぞ!もし、そんな事が起これば戦争が起きる!それでも良いのか!」

「全く問題ありません。元国王陛下」


 そう言ってレイクが指を鳴らすと、開きっ放しだった玉座の間の扉から数十名の白銀の鎧を着た騎士と蒼銀の鎧を着た騎士が入ってくると、見事な隊列を組む。


「レイク騎士団長。『真銀しんぎん騎士団』到着いたしました」

「同じく、『神鉄しんてつ騎士団』到着いたしました」


 そう言って黒髪と白髪の瓜二つな顔立ちの男達が敬礼をする。

 国王は、その2人を見て全身の血の気が引いていくのがわかった。


「なにっ、『真銀』に『神鉄』だと!?まさか、奴等まで…!」

「はははっ、考えれば分かることではないですか、元国王陛下。彼等は私の配下です、“あなたが”そうしろと命じたのですよ?」


 そう言ってケタケタと笑うレイク。


「さて、それじゃそろそろ終いにしようや」


 そう言って雄二によって振り上げられた足によって、寸分の狂いもなく切り飛ばされた首は弧を描いて空を舞うと、天井から吊り下がっていたシャンデリアに刺さりその切断面から血液を垂らし、室内を照らす光を血に染めたのであった。

 この日、ユグナイト王家は滅びた。

 ある異世界の勇者、たった1人によって滅ぼされたのだ。

 こうして雄二は、ユグナイト王国の支配者となった。

 全ては生徒達の為に、彼等が笑って過ごせる未来を作る。

 彼は返り血に染まった玉座に腰をかけるとニヤリと笑うのであった。

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