21.星降る世界の螺旋カノン 北大へと到着した磯野たち。そこで、この世界の柳井と竹内千尋に出会う。
21-01 いってらっしゃい
「
東京からここに
「ああ。やはり知っているのか?」
「ええ、
柳井さんは
柳井さんは、
「はじめまして。柳井と申します。
「はじめまして。
「まっすぐ行ったさきの
「わかりました」
俺にとってはなじみ深い二人の、絵に描いたような
この世界の二人は、おたがいはじめて会うのだから当然のことなのだ。ではあるのだが、あらためて目のあたりにすると……なんというか、こそばゆい。
千代田怜は、榛名たちのそばにいた警察官に
「怜、どうした?」
「磯野、ほら」
怜が目を向けたさきには、歩道で俺たちを見つめる榛名のすがたがあった。
そうか。
俺はシートベルトをはずし、怜のまえへ
「榛名!」
「
俺たちは見つめ合う。ほんのすこし。
けれど、目をそらすことをためらわれてしまうわずかな時間。
彼女は、俺に
「いってらっしゃい」
「ああ、いってくる」
「また、あとでね」
俺はうなずきかえして、
「怜、ありがとうな」
「なんのこと?」
「なんのことって……」
運転席を見ると、怜の横顔が目にはいる。表情がかたい。
「怜、身を乗り出して悪かったな」
「はあ? そんなことどうでもいいし」
交差点で車を止めた怜は、ふくれっ
「なにムキになってんだ?」
「ムキになんてなってないし!」
その顔なんだよ。思いっきりムキになってるだろ。
「ホントにヘンだぞ、お前」
「うっさい!」
「……あの、急いでくれませんか」
「あ、ごめんなさい!」
柳井さんの言葉に、怜は
なんなんだコイツ。
大学を南北へと通る中央道路を南へと走らせる途中、いたるところに警察官が目につく。こんな夜中に警備するには異常な数だ。
「
「え? ああ、
怜の言うとおり、俺と榛名が関係しているのだろう。
けれど、そもそもこのものものしい警備は、
「ねえ、磯野」
「なんだ?」
「さっきの警官」
「ああ、門の前の。敬礼してたよな」
「あの人、警察官じゃないと思う」
「え?」
「千代田さん、目の前のロータリーを左折してください」
「あっ、はい」
柳井さんに会話をさえぎられた怜は、左折したあとまた黙り込んだ。
警察官じゃないって、なにを
このロータリーって、たしか近くにクラーク像があったはずだよな。
ああ、二年前にセンター試験で通ったから覚えているのか。
「あれ、北一三条門から札幌駅近くまで戻ってきてるね。ならはじめから北九条の
そこで言葉を切った千代田怜は、そっかとぼそりと言ったあと、ゾーイってやさしいところあるんだね、とつけ加えた。
橋を通り過ぎたところでふたたび左折する。
「あの建物です」
柳井さんの指すさきを見ると、大きな三角形の屋根が特徴的な
「前で
エンジン音と入れ
警備のものものしさとは裏腹に、そんな夜の静けさがあった。
車を降り、俺たちは建物の入り口へと向かった。
「鍵を……かけても仕方ないか」
振り向くと、ボロボロになった車のまえで怜がたたずんでいた。
警察官に止められることなく、俺たちは百年記念会館のエントランスへとはいる。
白い壁に暗めの床。公共の
スーツの男がいた。
こちらに気づき駆け寄ってくる。三馬さんだった。
「柳井、ありがとう。彼が磯野君だね。はじめまして。私は――」
彼が最後まで言うのを待たずに、俺は手を差し出した。
三馬さんは一瞬、驚いたようだったが、すぐに握手を交わしてくれた。
「三馬さん、お会いできて光栄です」
「こちらこそ。みんなが待っている。行こう」
「みんなが待っている?」
「三馬、俺と……彼女、千代田さんは外で待っていればいいのか?」
俺が戸惑う横で柳井さんが三馬さんにたずねる。
「せっかくの機会だ。柳井、君も――」
三馬さんは、千代田怜に顔を向けた。
「そちらの警察官の方は、磯野君の連れなのかね?」
「あ、いえ……はい。わたしは千代田怜で、その、磯野とは、」
三馬さんは、俺と怜の顔を交互にみた。
「ああ、磯野君の彼女さんですか」
「「ちがいます!」」
俺と怜は同時にハモったあと、目が合ってしまう。
顔赤くしてんじゃねーよ。
「……えっとですね、コイツとは」
そういえば、俺はこの世界の人間じゃないんだから、コイツとのこの世界での関係は現実世界とはちがうんだよな。ちょっとまて……あまりに疲れすぎて頭が回ってないぞ。えっと、高校時代は、コイツが札幌で一人暮らししてたんだから――
「コイツってなんだよ」
「突っかかるところそこかよ」
「名前で呼べよ名前」
「いや、名前って…………怜ちゃん?」
「……な!? いつもどおりに呼べよ!」
「喧嘩すんなお前ら!」
階段を下りると、右手に大会議室と書かれたドアが見えた。
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