20.三七パーセントの世界 繰り返される死から脱出した磯野。彼は、渡り歩いた並行世界を常に見ていた存在、事態を打開可能な「機械仕掛けの神」に気づく。
20-01 イソノさん、その話はあとでかならず話す
ミサイル
俺は、操縦桿に重ねていた手を離そうとすると、ハルがその手を握った。
「……ハル?」
ハルは
「大丈夫か?」
「あ、いえ……はい」
ハルは、俺の手と操縦桿を離してうなずき、目を伏せた。
デウス・エクス・マキナ。
以前、
たったいま
ここ数分のあいだ俺の渡り歩いた数々の
……わからない。
だが、
――……
この言葉をさえぎることが、死へと至る世界から抜け出す鍵となったのだろう。ZOEは、いとも簡単に、俺たちを地獄の底から引きずり出した。
ZOEは、俺を試していたのだろうか。
HALが己の身を
彼女が世界から消えること。
HALがそれを言葉にするのを、ZOEは
彼女が己の命を引き換えにするその意志が言葉となった世界を、ZOEは否定しつづけたのだ。
ZOEの「気持ち」はわかる。
俺だって、彼女に「そんなこと」を言わせたくはない。
けど、それなら、なぜ俺に教えてくれなかった?
ZOEの「気持ち」を知っていれば、HALが「あの言葉」を口にするのをよろこんで阻止したのに。
――なぜ、いま、この状況で試した?
俺の意志を試す機会は、これまでたくさんあっただろう。
なのに……あまりにも
この数分のあいだに、俺と
「F-16二機の
「ZOE、お前は――」
「磯野さん、鼻から……血が」
「え?」
左手で
「磯野さん、大丈夫ですか?」
「……ああ、それより――」
操縦室のドアが開く音がした。
「イソノさん無事だったか。いや、無事と言っていいかどうかはわからないが」
「大丈夫ですか」
「ああ、私は平気だ」
「ライナス、この数分、俺は何度も生存世界への
「イソノさん、そのことについてだが――」
……そのことについて?
俺は立ち上がる。
「ライナス、知っていたんですか?」
「イソノさん、」
「いいですか、ZOEはこの世界におけるすべてをコントロール出来る、神のような存在なんです。俺と榛名が渡り歩いた世界線を把握しているんですよ」
それなのに――
「ZOEは、俺たちを見殺しにしたんです。いまみたいに助けられたはずなのに! その力があったはずなのに! ZOE! お前も聞いているんだろう? なぜ、多くの並行世界を犠牲にしたんだ。その意図を――」
「本機、
ZOEの声が
「燃料漏れ?」
「空港まで持ちません。可能な着陸場所は高速道路。
ハルが
俺とライナスは、向かい合ったまま動かない。
「イソノさん、その話はあとでかならず話す。いまは座席へ」
あとでかならず話す、か。
俺は、目の前にいる男の胸ぐらをつかみたい
冷静になれ、磯野。
ZOEと目の前にいる男が「敵」だったなら、俺にはもう榛名しかいない。彼女を守るためにも、生き残る可能性をすべて拾うんだ。
この
燃料漏れがZOEによるものならば、俺の
「――イソノさん」
「かならず、話してくれるんですね?」
「ああ。信じてくれ」
ライナスは、ハルを
「私は
「俺は、ハルのそばにいます」
ライナスは、わかったと告げて乗客室へと戻った。
俺は副操縦席に座り直した。
そこで思い出す。
あの地獄のような幾度もの収束を、榛名もまた渡り歩いてきたことを。
「榛名、大丈夫か?」
「……あ、磯野くん、わたしは平気」
イヤフォンを通して、榛名の疲れ切った声が耳に届いた。
「もう大丈夫だ。すこし休んでろ」
「うん、ありがとう」
榛名のそばにいてやりたいが、仕方がない。
俺はフロントガラスを見ると、星明りと、その下に広がる暗闇が敷き詰められていた。その暗闇には、ところどころ星が
え?
ふと視界の違和感に気づき、空を見る。
ミッドナイトブルーの空間に無数の流星が空を覆っていた。
……なんだ、この数は。
気のせいなどではない。圧倒されるような数の星が、地表へと降り注いでいた。
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