19-02 だから、気にしないでくださいね
「スパイですか?」
「ZOEを
ライナスはそこまで言うと、それよりも、と一間置いて、
「公式記録に残らないとはいえ、あの作戦の実行をも辞さないCIAという組織について
俺に
ライナスが以前言っていたことを、あらためて実感する。
――外側も内側も敵しかいないということを。
「このさきも彼らは手を
「北海道?
「ああ、きみたちをもとの世界に戻すためには、イソノさんとハルナさんがこの世界に最初に訪れた、
ライナスはそう言って、鷲鼻にかかった眼鏡をなおした。
彼が
それは、この世界の
「ライナス、そのことについてなんですが――」
この世界を救う方法について。答えの無いその問題について、もう一度、この男と話をする必要があった。
そこへ姉妹を案内していたハルが、一人ロビーへと戻ってきた。
俺たちを見たハルは、
「イソノさん、奥に並んでいる自動販売機には緑茶はあっただろうか? 日本の
ライナスは、軽く笑みを浮かべてから「失礼」と言って、その場をあとにした。
その様子をみたハルは、入れ替わるようにそっと駆け寄ってきた。
彼女は、いつもの黒いスーツに白のブラウスだったが、ここにくるまでに着替えたのだろう、新しいものに取り替えられていた。
ハルは目のまえまでくると、俺をじっと見つめて「ご無事でよかったです」と、小さく言った。
「ハルこそ無事でよかった」
そう言葉を口に出しながらも、彼女を置き去りにしたことへの
どこまでも
彼女が生きつづけることの出来るこの世界を救うこと、それが答えなのだろうか。
彼女は、俺の顔をそっと見て、またもやすべてを読み取ったかのように、けれど、そのうえで俺に気を遣わせないように言葉を選ぶ。
「……あの、ですね、
彼女はそう言いながらも、俺の右肩にそっと指で触れた。
そこで俺は気づく。
俺と榛名とのさきほどの会話は、ZOEをとおしてハルにも
彼女の
なあハル、俺たちは、きみのいるこの世界を救いたい。
そう、言いたい。けれど、その一言が、いまはただ、気休めにもならない
伝えたい言葉が言い出せない、その空白の時間を、「あなたを……護ることが、わたしの幸せですから。だから、気にしないでくださいね」と、ハルが、代わりに小声で埋めて、笑った。
彼女にそう言わせてしまったことに、俺は思わず目を伏せてしまう。
二人の時間が、彼女の言葉で終わってしまうまえに、なんでもいいか言葉を、
「でも、ハル、」
そこまで口にしたとき、ハルはロビーの奥へ振り返った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます